第9章…友達
楓ちゃんは帰ってきました
―――
そろそろ午前が終わる時間になってきた。
ボランティア活動に行っていた楓ちゃんがそろそろ帰ってくる時間だ。
つばきちゃんの秘密基地を出てから、俺は必死に雑用仕事をした。ずっと仕事をしなくてはいけなかったのに女の子といろいろあって仕事サボり状態になってたからその分を取り返そうとしている。
昼休みになったら楓ちゃんは俺のところに来ると思う。いつも一緒に弁当を食べているから。
その時につばきちゃんと友達になったことをちゃんと話さないといけない。友達になった以上、つばきちゃんと学校で絡む機会は多くなると思うのでそうなると楓ちゃんに隠し通すのは不可能と判断した。
別に悪いことをしているという自負はないのでどちらにせよ隠す気はないけどな。楓ちゃんが怒るのは覚悟の上でつばきちゃんに手を差しのべたんだから。
「涼く~ん!」
あ、楓ちゃんが来た。ボランティアで少しは遅くなったみたいだがいつも通りに楓ちゃんが会いに来てくれた。俺に手を振ってきたので俺も振り返す。
楓ちゃんはすごく笑顔だった。すごく機嫌が良さそうだ。ボランティアで何かいいことがあったのかな。機嫌が良いなら少しは話したいことを話しやすくなるから助かる……
……ん? 待てよ、あまりにも笑顔すぎる気がする。楓ちゃんを誰よりも近くで見てきた俺は、いつもと微妙に笑顔が違うことに気がついた。
俺はハッとして気づいた。気づいた瞬間背筋がゾッとした。あれは機嫌が良いんじゃない。逆だ。ものすごく機嫌が悪い時の楓ちゃんだ。機嫌が悪すぎて逆に笑顔になってるヤツだ、一番怖いパターンだ!
「涼くん、今日も一緒にお弁当食べよ!」
「あ、ああ……」
布に包まれていても一段と気合いが入ってることがわかる弁当箱を手に持った楓ちゃんがニッコニコの笑顔を俺に向ける。
「―――と言いたいところなんだけど、お昼ごはんの前にちょっといいかな……?」
瞬間、楓ちゃんから笑顔が消えた。光のない闇の瞳と真顔。怖すぎる。俺の陰嚢はキュッと縮み上がるのだった。
「涼くんに発信器をつけてるってのは前に話したよね」
「は、はい」
衣服をじっくり調べたことはあるがどこにどう仕掛けられているのかさっぱりわからないので外しようがない。どんな仕組みなんだこの発信器。
「その発信器で得たデータが私のスマホに送信されるようになってるんだけどさ」
俺の動きすべてが楓ちゃんのスマホに……!? アプリとかで俺の動きが全部記録されてたりするのか!? 恥ずかしすぎるが今はそこを気にしている場合ではなさそうだ。
「今日の涼くんの動きかなり不自然だね。校内を全力で走り回ってたり校舎の一部でしばらくジッと動かなかったり」
堀之内さんから逃げ回っていたりつばきちゃんの秘密基地で一緒にいたり、それら全部が楓ちゃんに筒抜けであった。
「普通に仕事してたら絶対にこんな動きにはならないよね。女子生徒と何かあったよねこれ。何してたの?」
もうすでにバレバレだったか。まあどっちにしろ話すつもりだったしちょうどよかったよな、うん。
「大丈夫、ちゃんと全部説明するから。だから落ち着いてくれ」
「落ち着いてるよ私は」
「目が落ち着いてない。その目やめてくれ。えっと、実はな……」
「あ、ちょっと待って」
楓ちゃんは俺にズイッと急接近してきた。そして首筋に顔を埋めてきて、俺の心臓がちぎれそうなほどドクンッと跳ね上がる。
「…………他の女の匂いがする」
「―――!」
「……この匂いは……野田先輩か」
さっきつばきちゃんに抱きつかれたことまで見透かされた。匂いだけで誰かわかるのか。楓ちゃんはつばきちゃんを徹底マークしてはいたが。
本当に全部バレバレだ。この徹底的な追求力。浮気をするのは不可能だということがよくわかった。いやしないけどさ。
こんなに大ピンチの修羅場みたいな空気なのに、楓ちゃんのいい匂いと、至近距離なので当たりそうな豊満な胸に夢中になった。俺の息子の方は意外と余裕なのか。
屋上に移動し、今日あったことを楓ちゃんにすべて話した。
話し終わった直後、楓ちゃんはベンチに座って俯いたまましばらく顔を上げない。今、彼女は静かだ。静かすぎるくらいだ。嵐の前の静けさといった感じだ。
次の瞬間、楓ちゃんはゆるふわな長い金髪を振り乱し、ナイスバディな女体を捩りまくった。怖い。誰がどう見ても豹変している。ものすごくイライラしているのがわかる。ここまで余裕のない彼女はめったに見られない。
「ごめん、涼くん。ちょっと見苦しいと思うけど、今の私本当に無理なの」
「うん、大丈夫。見苦しくなんかないから」
「本当は発狂して大暴れしたい衝動に駆られてるんだけど……私は生徒会長だからそんなバカなことはできない。なんとか抑えて堪えてみせるから……」
身体を捩りすぎてたわわな乳がむぎゅっと寄せられ、制服が乱れてボタンが外れて、谷間とブラジャーがチラッと見えてしまって俺は慌てて目を逸らした。
そのまま5分くらい、制服が乱れるくらい必死に怒りと闘った楓ちゃんは、ようやく落ち着いてきた。
「……ハァ、ハァ……言いたいことがありすぎるけど、まずは堀之内さんは退学で」
「えっ!?」
落ち着きを取り戻したかに見えた楓ちゃんが最初に言った言葉がそれだった。
「当然じゃない? 涼くんにバットで襲いかかる危険人物なんてこの学校にはいらないよ。しかも前回注意してシメたのにまた同じことやるなんて、反省の色なしじゃん。同じクラスとして恥ずかしい」
「待ってくれよ、危害を加えたら退学って話だろ? 見ての通り俺はちっともケガなんてしてないからさ」
「なに? 堀之内さんを庇うの?」
楓ちゃんにギロッと睨まれて俺は少し冷や汗を垂らした。
「庇うつもりはないしあの子が危険なのは確かだけどさ、俺が信用できない不審人物なのも事実だし、退学はやりすぎだろって思うだけだ」
本当に危なかったけど本来なら男禁止の環境で働くんだ、当然敵も多い。あれくらい自分で対処できなきゃここで働く資格なしということだ。
「じゃあ停学で。堀之内さん1週間停学。これ以上は譲れない。
今日はどうしても校外に行かなきゃならない用事があったからこんなことになっちゃったけど、私が学校にいる限りは涼くんに手は出させないから。同じクラスだし徹底的にマークしておけば堀之内さんは恐るるに足らない。
堀之内さんはもういいとして、問題は野田先輩だね」
「う……」
「涼くんが野田先輩と友達になったってどういうことなの? なんで私のいない間にそんなことに?」
楓ちゃんとの話し合いはこれからが本番である。
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