俺の話
俺はこの話を誰にも話すべきじゃないと分かっている。けれど、もう耐えられない。だからここに書く。もし信じても信じなくても、それはお前次第だ。
俺には双子の妹がいる。名前は仮にサチとしよう。俺たちは昔から一緒に過ごしてきて、まるで鏡を見るような存在だった。もう一人の自分だと思っていた。だが、ある日両親が突然失踪し俺たちの関係はどんどんおかしくなっていたんだ。家に残されていたのは、たった一枚の置き手紙と謎の高額旅行チケットだった。
「私たちはここから、いなくなる。このチケットをどう使うかは、お前たち次第だ」
そんな曖昧な言葉が書かれていた。俺たちは置き去りにされ、手元に残ったのはその奇妙なチケットだった。何のためのチケットなのか、どこへ行くものなのか、それは全く分からなかった。だが、そのチケットが俺たちの間に決定的な亀裂をもたらした。
サチは、ここに残りたいと強く言ってきた。でも俺は、家を出たかった。俺には、この街でやりたいことがあったんだ。だけどサチはそれを理解してくれなかった。
「どうしてそんなにこの街に残りたいの?」
その問いかけに、俺はどうにも答えられなかった。サチの瞳は怒りで燃えていた。言い争いはエスカレートし、俺は耐えられずに家を飛び出て、気がつけば手にチケットを持っていた。あのまま一緒にいたら俺はサチに何かしてしまったかもしれない。
数時間、町をブラブラして、我に返ると手にしていたチケットを破り捨てた。どうしてそうしたのか、自分でも分からない。怒りからなのか、悲しみからなのか。ただ、裂けたチケットを見て、何とも言えない感覚が胸に押し寄せた。何かが変わってしまったような、そんな気がした。
深夜、こっそりと自宅に戻った。
家の中は異様に静かだった。ドアを開けて玄関に入ると、普段聞こえるはずの音も何もなく、まるで時間が止まっているかのような感覚だったんだ。リビングに入ると。サチがそこに立っていた。
「……サチ?」
そう思った。けれど、そこにいたのは俺だった。髪型も服も、すべてが俺と同じ。だけど、その目には見たことのない冷たい光が宿っていた。
「なんで…?」そう発せられた、もう一人の自分の声は震えていた。
その足元には血の海の中にサチが転がっていた。それを見た瞬間、頭が真っ白になった。恐怖と混乱、そして何か激しい怒りのようなものが俺を支配した。こいつは侵略者だ。ここは俺の家で、この世界は俺のものだと、そう思わずにはいられなかった。
気がついたとき、テーブルにあった重いガラスの灰皿を俺は手にしていた。そして次の瞬間、俺はそれを、もう一人の自分に向かって振り下ろしていた。
鈍い音がして、もう一人の俺はゆっくりと崩れ落ちた。床に広がる血、倒れた“もう一人の自分”の姿を見て、恐怖と共に何かが胸の奥で静かに折れた感覚がした。俺は膝をついて、その場で震えていた。
静寂が戻り、耳に届くのは自分の荒い呼吸音だけ。目の前に横たわる“もう一人の自分”はもう動かない。そう。俺は自分が何をしたのか分かっている。でも、どうしようもなかったんだ。この家にいるのは、俺だけでいい。俺が“本物”で、ここにいるべきは俺だけなんだ。
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