第15話
「こ、殺さないでくれ」
大統領とは名ばかりの情けない男に、ココは眉をひそめる。
「そうやって命乞いした人びとを、あんたは助けたの?
マリオンを利用するだけ利用して、裁判もせずに殺したそうじゃない。それは処刑ではない。ただの人殺しよ」
軍本部に幽閉後、マリオンは高次元電磁波爆弾の研究を続けさせられた。
やがて、爆弾の投下。この星は地上の地獄へ。
そしてマリオンは、敗戦の罪をひとりで背負って処刑された。亡骸は砂漠に放置された。
火葬されることも、弔われることもなく。
処刑から一年後、ココは砂漠で歯を拾った。
持ち帰り、DNA検査をするとまぎれもなくマリオンの臼歯だった。
強く噛み締めすぎたのか、臼歯はひび割れ、一部が欠けていた。
電子回路が制御不能になるほど、ココは雄叫びを上げた。
臼歯はマリオンの生きた証、そして恥辱にまみれて死んだ証だった。
マリオンは約束を守った。どんな姿になってもココの元に帰ってきた。
それから、夜明け前の散歩がココの日課になった。
砂漠で砂金を探すように、マリオンの欠片を探した。どんな状態であってもいい。
小さな欠片でも、野ざらしにしているのは我慢がならなかった。
鼻骨と末節骨は見つかったが、他は発見できなかった。
──まだだ、まだまだだ。マリオンを取り戻すまで、あたしは納得できない。
マリオンの欠片を探しながらココは、大統領暗殺の機会をうかがった。いつ行動を起こすか、コイントスで占った。
マリオンが元気な姿で帰ってくるのが一番いい。
それが叶わないのなら、生命の代償を支払ってほしい。いくら金を積まれようとも足りない。
生命の代償は、生命でしか釣り合わない。
もちろんココは、大統領を殺めても、マリオンは戻ってこないとわかっている。
ただ、どうしても赦せない。大統領はなぜ生きている?
マリオンはもう、温かいスープを飲むことも、柔らかなベッドで休むことも、他愛ない冗談に笑ったり、世間に憤りをおぼえたり、静かに涙を流すこともない。愛や夢を語ることもない。
マリオンは死んだ!
なのになぜ、おまえは生きているのか?
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