精神の内より我を呼ばう声あり。そうあれかしと身を改む。

2022年、ロンドンで起きた連続殺人事件は、1962年の端緒となる事件、その真相。ましてや原因となる存在も、一切が不明のまま終結を迎え、関連資料、事件の証拠も隠蔽された。

その後、遠く離れた日本でも失踪や殺人といった事件が起きた。
奇怪な一連の事件の結末に立ち会った者がいる〝林海峰〟という男である。

彼は〝人を変える性質をもつ存在〟を捜索し解明することをその教義の一つとする道教教団の二代目教祖であった。

遺伝子工学の研究者としての面を持つ彼は、件の存在の痕跡を辿り、東都大学理学部へ短期の研究生としての身分を得て来日していたのだ。

林海峰は同校の大脳生理学者、永瀬晟と共に事件の真相、本質的な様相を詳らかにする。


その存在が共にある時、人間は変わる。
秘めた願望を意識に潜む存在がかなえるのだ。ただしそれは、本人な望む形ではない。

現代社会に起きた奇妙で凄惨な殺人事件の真相はスコットランドヤード、謎めいた宗教組織、遺伝子科学、脳科生理学と多くの人の関わりと知見によりその存在────人間が〝神〟と定義する生物、その共同体の推察へと至る物語である。

作中の林海峰の思索は、やがて宗教の元型が成立する事象にまで敷衍されて行く。

姿形も言語も感情もない〝その存在〟は、どこから来てそして何処へ人類を導くのか。
それは幸いか、はたまた災いか。

惨劇により顕れた現代の黙示録。
その始まりの喇叭が、いま鳴り響く。

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