一欠片の幸せ

 煌びやかに街を照らすネオン街には似つかわしくない少女が1人。


 黒髪ロングに薄化粧、清楚可憐でオシャレなカフェでお茶を飲みながら読書をしていそうな静かな文学少女。それが彼女の第一印象だった。


 しかし蓋を開けて見ればお酒が大好き、後輩への無茶振りは日常茶飯事、夜のネオン街へ出向くのだって厭わない。そんなイメージとはかけ離れた人だった。


 今こうして夜の街をぶらついているのだって、何軒目だか分からない居酒屋をハシゴしている最中だった。


 初めはサークルで少し話す程度だった。


 見た目と中身のギャップが激しすぎてついていけるか不安だったけれど、話してみれば意外と馬が合う。


 おそらくこの人は周りを使うのが上手な人なのだろう。こちらの気を損ねない立ち回り、話しやすい環境作り、そういったコミュニケーション能力に長けていた。


 そんな彼女にいつしか惹かれていった。今は先輩に振り回されるだけでも幸せだと感じるほどに。


 しかし彼女は僕の事などただの後輩の1人としか見ていないだろう。言動の端々からそれ以上に捉えることが出来なかった。


 けれど─


「ねぇ『後輩君』、次はあのお店にしよう!」


 この無邪気な笑顔を今この瞬間、僕だけが独占できていることが幸せで仕方なかった。

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