第9話
「緋山くん。ああいうタイプははっきり伝えないと一生進展しないわよ」
いつだったか、深夜勤務で師長と一緒になったとき、突然そんなことを言われた。
え?なに、俺ってそんなに分かりやすいの?
動揺して慌てて。
あっさりと師長の言葉に引っかかってしまった。
「俺、そんなに分かりやすいですかね?」
ここでジタバタしても仕方ないと腹を括り、開き直って師長に意見を求めた。
「周囲のどのくらいが気づいているのかは知らないけれど、少なくとも当の彼女以外はなんとなく気づいているんじゃないかしら」
「マジですか……」
職場恋愛に抵抗感があったから、もし自分がそんな状態になったら、絶対隠し切れる自信があったのに。
とんでもない間抜けじゃないか。
「妹尾さんって、仕事とプライベートを無意識にでも分けているような感じ。職場ではそういう感情っていうのかな?それに蓋をしているみたいに感じるのよね」
「恋愛感情に蓋……?」
そんな相手にどうやって気づいてもらえって言うんだよ。
「だから、一歩進みたいなら、はっきり伝えた方がいいんじゃないかしら?」
師長はこともなげにそういうが、それは簡単なことではないと思う。
俺の一方的な片思いだったら、とか、告白して今までと同じように付き合えなくなったらとか、言い訳は山のように浮かんでくる。
でも、正直うかうかしていられないのも分かっている。
ずっと妹尾のことを見てきた俺だから気づけたことかもしれないが、妹尾と同期の久間田建都の距離間に少し違和感を感じている。
久間田建都。
目立つタイプではないが、仕事は丁寧だし、上の人間に対する態度も悪くない。多少愛想の面ではもう少し頑張ってほしいところだが、今の時点で問題点は見つからない。
その久間田建都が、気付けば妹尾の隣にいることが多い気がする。
同期だからと言われればそうなのかもしれないが。
なんとなく。
妹尾にそれとなく久間田の印象を問えば、彼女らしいなんとも公平な返答。
「愛想はないけど、仕事は丁寧だし、物覚えも悪くないよね」
「その……派手じゃないけど、結構イケメンだよな」
さらり、と言うには多少吃ってしまった俺の問いに、彼女は意外そうな顔をして笑った。
「確かに同期の子達の間では人気があるみたいだね」
それって、妹尾もそうなの?
とは聞けない俺の不甲斐なさに涙が出る。
「そういうのも、査定とかの要素になるの?」
見当違いの方向へ向かっていく彼女の問いに項垂れつつ「違うよ」と溜息で返したのはいつだったっけ?
どうしたら、目の前にいる妹尾真直の好みのタイプを聞き出せるのかと、悩む自分が馬鹿らしくなった。
師長の言う通り、コイツには直球勝負に出ないとダメなんだ。
好きだと伝えない限り、前に進むことはできない。
それに気づけただけでも進展だと思うことにした。
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