フィクションなりの歴史との接点2

第16話

 官僚機構のはしり、歴史上、実際には土地所有の裁判権や荘園領主のまとめ役などを行った、管理官である勘解由使なども、この物語では「時の勘解由使」がいる。「時の勘解由使」は人事権として、「暦人御師」の任命権を持っている。また「時の検非違使」という判官職や役人職を設けて、荘園の名残である御厨地域に残ったタイムホールの秩序維持。その目的は時間移動を厳しく取り締まる警備と時間移動のルールや法の遵守をさせるという番人の役目。物語の性質上、あまりそう言った場面を描くことは無いと思うのだが……。

 そういうことなので、「時の検非違使」の方は、時間管理警護で時間法則の遵守を促し、その権力の行使を行う。また時の翁と時巫女を支配下としている。その末端実行職が暦人であり、彼らとの協力体制を維持している。「時の勘解由使」の方は人事権として、「暦人御師」の任命権を持っている。

 この辺りは、セカンドシーズンの終わりに飯倉御師任命のシーンで登場させているのでお読みいただきたい。


 やがて武士の台頭や朝廷の力の弱体化により、各地の荘園制度は徐々に領地という「本領安堵」の主従関係に変化していくことを本当の歴史では学ぶ。伊勢神宮の御厨も例外なく、徐々にその荘園制度の崩壊とともに歴史の表舞台から姿を消していく。

 室町期までには守護大名にその領地や勢力範囲へと土地は置き換わり、神祇崇敬と威厳のみで支配権を維持できる社会ではなくなる。

 そこで本作品の設定では、歴史背景に準じている。各地の暦人御師は各御厨に土着化して、その御厨、すなわち荘園の管理をしていた中心神社にあるタイムホール、「虹色の御簾」の管理と保存に役目を変えて、先祖代々守り始める。これがこの物語共通の基本設定だ。

 隠密行動をしやすい、神官、農家、旅籠、鋳物鍛冶、学者、手習所経営などへと、仮の姿を探し、その表の身分を変えてしまうという設定になる。中には下賜されたその学問知識を使って、夏見家のように、以前の朝廷時代と同様に、卜占や時間管理を民間で扱う家系も登場する。それは小宅家も同様で、下賜されたガラス生成技術とアミュレット生成の妖術へと置き換わるものもある。

 暦人たちが密かに身分を隠し、その隠密行動により現代、未来へと生き延びたあたりから、この物語のSFとしての超常空間や絶対生物との連携に繋がる。超常空間が「虹色の御簾」や「時の館」、「時守の里」であり、絶対生物が時巫女、時の翁、付喪神、時の検非違使などとなる。いわばこの物語の主なる世界観である。要は歴史現象とSFの狭間で構築した現代の日常ファンタジーとSF物語と言うことになる。



 創作の面で、この作品はなるべく事件性のあるエピソード、悲惨な犠牲者や悪人、犯人を作らない世界観を持ち味にしている。そのためはらはらドキドキは少ないと思う。これは別に偽善的世界を装うためでは無い。このシリーズでは、単に物語創作の基本である「禁じ手」を用意、設定して、作者自ら悪役や悪者など、それらの類いを使わずに感動や愛情を表現できるような物語を紡ぐことを研鑽し、趣向を凝らしている。なので、カムフラージュとなるいけずや無粋な行為は、ほとんどが優しさと思いやりのための前振りである。それらは最後にはハッピーエンドとなるための伏線だったりする。

 それがための「禁じ手」から出たプロット構築のためのプロセスの一部である。


 そうはいっても、独りよがりは困るし、リアリティばかりでは、説明文が多くなる(エピソードゼロの反省点)。ここに挙げた歴史現象や事象も基本的には予備設定であり、本編を読むのに必要な知識ではない。ただリアリティとの接点がほしい人は、作者の世界観としてはこのような歴史との接点を持って物語を紡いでいるとお伝えしておく。ただし理屈よりも、とにかく皆さんに楽しんでもらえることが一番のモットーである。基礎知識を最小限に、登場人物の個性を多大に活かした楽しい物語が目標だ。まだまだ至らないが、そこを目指している拙い身の筆者である。あしからず。

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