第8話  グレシャス

「「ごらーー!!、エリサ!! 何てことをしてくれたんだ!! 宿舎の壁五部屋に風穴を開けるなんて!! おかけで俺のでの給料が向こう三年分無給になったんだぞ!!」」


 エリサと同じ薄い茶色の髪と、茶水晶のような輝きを持つ父のレフの目は、今は、普段よりつり上がっている。

 もともと、エリサは、父親似なのである。

 自分と似た顔が、怒っているのを見るのはかなり怖い。


「母様~~ 父様が、怖いわ~」


 そう言って、母親のアリシアの後ろに隠れようとしたら、頭にゲンコツが飛んできた。


「「いた~~!!」」


「言ってあったでしょう!? お前が何かすれば、その責任はわたしたちにくるのだと」


「だって~~ 壁に吸い込ませたつもりなのに、壊すつもりはなかったわ」


 頭を擦りながら、エリサは反論した。


「お前の力の方が、強かったわね。風のみちで王女を奥方のところへ送り返したつもりでしょうけど、向こうも風の奥方がいなければ、若長にも被害が及んでいたかも……という話よ」


「その件で話がある。アリシア」


 珍しくレフが母に話しかけている。


「何? レフ」


「お前……、賢者様に泣きついただろう!! 知ってたのか? ジェドの父親が賢者様だって言うことを!!」


「ええ、学び舎では有名な話だったもの。だから、この件にジェドが絡んでいるのを知って、直ぐに連絡して紹介状を書いて送ってもらったわ」


 レフは、最早何も言えなくなっていた。上位の風の精霊を持っているアリシアだ。事件を聞きつけたのも早かったのだろう


「……お前の罰は……?」 


「エリサの監視よ」


 アリシアは、ニッコリ。レフは、ゲッソリした。



 *



 エリサは、反省の意味も込めて、頑丈な数百年前に作られた石造りの塔に一か月間の軟禁状態に置かれることになった。アリシアも近くにいたが、反省にならないので、塔の一階と三階に別れて入れられてしまった。


 一人になってエリサは、改めて、光の神のイリアスから聞いた《グレシャス》の名前の意味を考える余裕が出来た。


「《グレシャス》……名前を教えてくれたって何なのよ~~」


 エリサの前が、銀色に光った気がした。

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