第17話

そんな私を見て都ちゃんは心配そうに覗き込んだ。


「蘭ちゃん?何があったの?」


言ったらゆきくんが大変なことになる。



「……言えない」



「おはよう、米倉!」



日高に挨拶されて放心気味な私は思わず無意識に「おはよう」と、返していた。



「米倉、おはよー!」



もう一回大声で言ってくる。



「……うるさい」



私が一言そう言っても「ごめんな!」と、笑顔で席に着く。



……元気だな。

ゆきくんの一大事なのに呑気なやつだ。



「おはよう、蘭」


「……眞冬ちゃん」



私をまじまじと見てイヤホンを外す。



「昨日はどうだった?福本先輩に言えたの?」



眞冬ちゃんの言葉に異常に反応してしまった。


私が何も答えないでいたら「蘭?どーしたの?」と、少し心配そう。



「顔色悪いよ」


「……悪くないよ」



私は分かりやすいから、皆にどーしたのってすごい聞かれた。だけど誰にも言えない。



そしたら朝のHRでシンデレラの台本が皆に配られた。



「本当にあるじゃん、キスシーン」



美奈ちゃんが前の席で苦笑しながら言う。



「あの話の原作にキスなんてなくない?」



私はボーッとしてて、美奈ちゃんの言葉が耳から抜けてった。



「蘭?聞いてる?」


「へ?」



笹内まで私に「米倉なんかあったの?」と、心配してきた。


相変わらず、いいやつだ。



「何もない……」


「米倉!頑張ろーな!」



結構な距離にも関わらず日高は私に大声でそう言ってくる。


台本をパラパラめくると日高とのシーンなんて大してないことに気付く。



「美奈ちゃん、酷いね。私にこんなこと言うの?」


「楽しみで仕方ない」



『灰被りは所詮灰被りなんだよ!』だって。

ひどい……。



「あのさ、蘭。今日ファミレスいこ」



HRが終わると眞冬ちゃんが私にそう言ってくれた。



「珍しい。まふゆからそんなお誘い」


「私が誘ってんのは蘭と都だけどね」


「なんだと?」



美奈ちゃんと眞冬ちゃんはいつも以上に楽しげに私の気持ちを盛り上げる努力をしてくれる。


その日の休み時間にゆきくんが私の所に来た。


「ゆきくん、どーしたの?」


「いや、特に用はないんだけど。

朝何か言いかけてたし元気なかったからさ」



すると私の後ろから日高がわざわざ顔を出す。



「何しにきたんですか?」


「また日高くんか」



はぁ、とため息をつき呆れた顔のゆきくん。



「今、俺は蘭ちゃんと話してるんだよね」


「シンデレラの台本です」



ゆきくんは一応受け取りパラパラーとめくる。



「あんまりないね」



笑顔で台本を返す。



「蘭ちゃんとのラブシーン」



多分その笑顔が日高をイラつかせる。



「……あの、ゆきくん」



私はゆきくんを見つめ小さい声で言った。



「私、大丈夫。だから戻ってへーきだよ」


「え、でも……」


「もうチャイム鳴るし、本当に平気」



ゆきくんはズット私を見ながら階段を上る。


行ってしまったゆきくん。



「……ゆきくん」



日高は後ろで舌打ちする。



「うぜー」


「ゆきくんの悪口言わないで」



睨んで言うとため息をつく。



「あいつのどこがそんなに良いんだよ」


「全部」



「俺のがかっこいいじゃん」



……ナルシストとか有り得ない。



「ゆきくんの良さ分からないやつと話したくない」



厳しくそう言ったら日高は私を見下ろした。



「分かってるよ」



そして遠くを見た。



「足も速いし頭も良いしギターもメッチャ上手い。



おまけに優しくて心も広くて。


ヒロはあいつが大好きだし、っつーか、あいつのこと嫌いな奴いねーし。だからムカつく。だから、負けたくない」



そして日高はまた私を見た。



「俺、負けたくない」



チャイムが大きな音で鳴った。

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