THIEF
斗花
プロローグ
第1話
「……なぁ、たかし」
「あー?」
「この曲にキーボードが必要ってお前、知ってて購入したか?」
俺がそう尋ねると慌てて譜面を取り上げた。
「えっ?!……うわー、どーしよ」
貴志は頭をかきながら近くの机にこしかけた。
「ライブまであと一ヶ月なのに……」
「つーかさ。
何で、俺ら上手くもないのにライブをやる必要があるわけ?
別にやらなくてよくね?」
「良いじゃねーか。
知り合いの先輩がライブハウスの経営始めたから、良かったらどうかって誘ってもらえたんだから」
貴志の知り合いはちょっと謎だ。
俺のやってるバンドはギター二人とベースとドラムとボーカルの五人組でTHIEFってゆう。
メンバーは
五人の頭文字を並べたらTHIEFになって、シーフって言いやすくね?って感じでつけた。
その単語が実際に存在して、意味が泥棒だなんて、夢にも思わなかった。
「えーじー。曲、どうなった?」
「ヒロ。実はな、これ」
防音室に少し遅れて入ってきたギターのヒロに楽譜を渡す。
「なぁ、キーボードって誰がやるの?貴志できんの?」
首をふる貴志を見てヒロは俺に視線を移す。
俺もゆっくり首を振る。
「じゃあ……伍樹?
でも伍樹いないとドラムがいないよな。
フミは楽器はまるで無理だし」
そんな話をしていたら噂の二人が入ってくる。
伍樹とフミに譜面を見せるとヒロとほぼ同じ反応。
「分かったよ!買い直せば良いんだろ?」
機嫌が悪くなる貴志。
「買い直すって言っても譜面代、全部遣っただろ?金なくねーか?」
ヒロの言葉に貴志は何も言い返せない。
俺達が途方に暮れていると。
「失礼しまーす!」
三年の坂本鈴音先輩が、なぜか段ボールを持って入ってきた。
「あ、シーフのみんな。こんにちは!」
すると俺の持ってた譜面を横から覗く。
「あ、これライブで演奏するの?」
「いや、それが……」
「あれ、キーボード?
シーフってキーボード弾ける子いたっけ?」
黙り込む俺達。
その様子から先輩は何かを察した様だった。
「……ライブって来月の17日だよね?」
鈴音先輩は何だかんだ、軽音楽部の各バンドのことを把握している。
「はい、そうです。
貴志の先輩のライブハウスで-」
「私、弾こうか?」
俺の言葉を遮って笑って言った。
「……はい?」
「来月の17日なら丁度、私達のライブが終わった頃だし!
夏休みに入る前だからギャラスタは割と暇だし!」
坂本先輩はGalactic Stars、略してギャラスタのキーボードである。
「良いんですか……?」
「うん、多分!
だってこの三曲だけでしょ?ヨユーだよっ」
そう言って坂本先輩は俺達にピースして微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます