わがままプリンセス
斗花
第1話
卒業式を三日後に控えた、日曜日。
「起きろっつってんだよ!おい、よしきっ!」
「うっ……」
ガンッと腹を蹴られ最悪な形で目覚める。
うっすら目を開けると笑顔で俺を見ている
……多分。
「おはよ」
「……おはよ、ヒメ」
「起きんの遅い。もう9時なんですけど」
何で休日に早起きしなくちゃいけない、とかそんなこと、ヒメには言ってはいけない。
「おかげで私はゲームを4ステージもクリアしちゃった!」
だったら一人でゲームしてろよ、とかヒメには言ってはいけない。
「うん……。良かったね」
俺が服を着替えるべく、ゆっくりと起き上がると服を引っ張られ転ばされた。
「そうじゃないよね?」
ニコニコ、ジーッと俺を見るヒメ。
「はい……。
寝坊して、すみません……」
俺の言葉にヒメは笑顔を見せる。
なぜ、休日に少し長く寝ていただけで腹を蹴られて目覚め、あげく、反省しているんだろ。
「ヒメ、何しに来たの?まだ9時だよね?」
「もう9時だろ」
俺の言葉に睨んでそう答える。
その言葉にも俺は無抵抗で頷く。
ヒメに逆らったら倍で返されることは何となく、目に見えている。
「で?何しに来たの?」
「ほら、行くよ」
ヒメは説明もなく俺の腕を引っ張る。
「着替えるから、部屋から出て」
俺がそう言ったらまた、蹴られてしまう。
「今更、照れてんじゃねーよ!さっさとしろっ!」
俺は近くにあったシャツとジーパンに着替え上からジャンパーを羽織る。
初めて俺達の会話を聞いた人はまさか、俺がヒメの先輩だなんてことは考えないだろう。
……そう、俺はヒメの卓球部の先輩だった。
今は引退したけど。
一年生の頃に告られて、まぁ可愛いし当時はいい子だったし『俺も好きだよ!!』なんて、バカみたく答えた。
……いつからだろう。
ヒメの愛のあるマッサージが恨みのこもったキックに変わってしまったのは。
とにかく、今はそんな訳で関川姫代と俺、
何度も別れよう、という話は出た。
なぜか切り出しはいつもヒメなんだけど。
その理由もまたバカバカしいんだけど。
その度に俺は「分かった」と言わずに「別れない」と、答えている。
そして俺がそう言うとヒメは笑って可愛いことを言う。
……変な話、その会話が楽しくてヒメと付き合ってる節はある。
俺も相当、変人かもしれない。
「で、ひめ。どこに行くわけ?」
俺はヒメにヘルメットを渡す。
「まさか、遠く?」
AOで大学を決めた俺は秋以降、大変暇だったのでバイクの免許を取った。
しかもヒメを乗せるべく短期でバイトして中古の二人乗りを買った。
喜んでくれると思った。
しかし、ヒメが言った言葉。
「どーせなら車にしろよ」
傷付いた。
ラジオにそのエピソードを投函したら面白そうに読まれた。
そしたらそれもバレた。
「送られてきた粗品、頂戴。私の手柄なんだから」
もちろん渡した。
渡さないともれなくキックとパンチが待ってる。
「ねぇ、ヒメ。どこに行こうとしてるの?
言ってくれないと無理でしょ」
「海浜公園に決まってんだろ」
そこは俺達が初めてデートした場所。
「私が行きたいって言ったらあそこしかない」
……この前は確か遊園地だったけどな。
「分かった。じゃあ、ちゃんと掴まってね」
「言われなくてもそうするっつーの」
俺が優しく言っても可愛くは答えない。
……黙ってりゃ本当、姫みたいに可愛いのに。ヒメに口をつけた神様は大失敗だったと思う。
ヒメのことをよく知らない友達にはいつも「お前の彼女可愛いなぁー」と、言われるがもう、俺には可愛くは見えない。
口を開けばわがままだし、手が挙がれば殴ってくるし、足を上げればローキック。
最近では何を見て覚えたのか知らないが、柔道かなんかの技まで習得するようになった。
意味が分からない。
それ以上強くなってどうする?
おれを殺す気なのか……?
「はい、着いたよ、ヒメ」
ヒメはありがとうも言わず静かにバイクから降りた。
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