願いは叶うもの

斗花

第1話

おかしなことになってる。


「秀くーん。あけおめー」



いや正確には、おかしなことになる予感がしてる。



「……おい、淳士。どーゆーことだ?」



俺の質問に苦笑いする淳士。



「どーゆーことだよっ?!」


「まぁ、まぁ。落ち着きなって!」



怒る俺を見て冴島が笑いながら宥めた。



「とりあえず、神社行こっか!」



俺と淳士の間に入って歩き出そうとする。



「待てよ、ちゃんと説明しろっ!」



そんな俺を見て淳士がはぁー、とため息をついた。



淳士に初詣に誘われたのは昨日の夜のことだった。



年末年始の深夜番組をリビングで見ていたら突然俺の電話が鳴ったのだ。



「あ、淳士か?」


「おー、あけおめー」


一緒にいたフクがテレビのボリュームを下げた。


「何だよ、こんな時間に」


「いや、ちょっとな。今、平気か?」



ソファで眠ってしまっている蘭をフクが起こして部屋に上げる。

2階にいる、というジェスチャーだけ俺に送ってきて、俺も首を縦に振った。



「あぁ、平気。どんな話?」


淳士は少し迷ってから聞いてくる。


「お前、明日暇か?」


「はっ?何で?」


「初詣一緒に行かねー?」



淳士にしては珍しい誘いだった。



「あー、悪いな。


明日、フクと蘭と初詣行くんだよ。

兄貴も帰ってるし」



そして、それで電話は終わるはずだった。




しかし。



「おい、フクー。

そろそろ部屋で寝よーぜー」



階段を上がりフクに話しかけた時。




「あ、しゅう……」




二階に上がってスグの所で蘭を抱きしめるフク。



「ん……、しゅう?どうかしたの……?」



目をこすりながら俺のことを見る蘭。


いま、米倉家には俺とフクと蘭しかいない。

他の大人達は皆、福本家で飲んでいる。



「……おい、フク。

お前、これ、どーゆー……」


「ちょっ、秀!誤解してる気がする!」



そう言って蘭を部屋に入れ、俺から後ずさりで逃げる。



「何が誤解だ?!」



フクの腕を掴み俺の部屋に無理矢理入れた。



「てめー、蘭にまた変なことしようとしたろ?!」


「してないって!


蘭ちゃんが最後の階段でコケそうになったからそれを支えてあげただけ!


マジで本当に何も……、」


「ゆきくん?」



俺の部屋をノックし蘭が静かに部屋の扉を開けた。



「あ、蘭ちゃ……」



「ゆきくん、さっき、おやすみのチューしてくれるって言ったよ……?」



気味の悪い沈黙が流れる。



「蘭ちゃん……?」


「おい、蘭。どーゆーことだ?」



寝ぼけてる蘭は俺にもベラベラ話し始めてくれた。



「私が怖い夢見たから、ゆきくん側に居てってお願いしたらー、ギューッてしてくれてー、『チューして』って言ったら『あとでね』って」



また、流れる沈黙。



フクがゆっくり部屋を出て行こうとした。

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