第7話

「あの伯爵様、家財没収で街を追放になったみたいだぞ」


「そうよね、あれだけの騒動を起こしたんだからそうなるわね」


ゆっくり進むわたし達の横を忙しく追い越していく旅の商人達。


皆アルファルドでの騒動はもちろん知っているし、わたし達がアルファルドを離れてからの状況にも詳しい。


そりゃ商人は情報が命だからね。


そんな忙しい商人達も、わたし達が解決に関与したことは知っているから、追いつくなりその後の顛末を教えてくれる。


もちろん、暇な旅の空のわたし達もそういった話しは大歓迎だから、欠かさず聞き耳を立てているのだ。


「だけどさぁ、ちょっとおかしいと思わないかい?」


「ミーシャさん、何がですか?」


「ほら、商人達の話しだと、伯爵が麻薬を渡して商会が売り捌いていたんだよね。


だけど家宅捜索しても麻薬が出てこなかった。


そして麻薬を製造していた形跡もない。


それじゃ、伯爵はどうやって麻薬を手に入れてたんだろうね?」


「???」


「ははは、カーツに聞いても分かるわけないよね。」


「もう、わたしが馬鹿みたいじゃないですか……全く分からないですけど」


「ははははは」


「うーー、また笑った……


でもたしかにそうですね。イーグルさんも麻薬は初めて見たって言ってたし……………


まさか、他の街から持ち込まれたとか!」


「ふわ~、それなら入場時の検問で引っ掛かるはずさ。」


寝てたのかと思っていたラーツさんが、欠伸をしながら答える。


「そうだねーたしかにおかしい。


でも伯爵家の紋が付いた荷物なら検められることも無いんじゃないかな」


「いや、まえまえからイーグルさん達は伯爵の不正を疑っていた。


そうなると伯爵家の荷だからこそ見逃すはずは無いと思う」


「よく分からないですけど、本当に伯爵が麻薬を渡してたんですかねーー?」


「うん?どうしてカーツはそう思うんだい?」


「だってイーグルさんも麻薬を初めて見たんですよね。


だとすると、少し前まではアルファルドには麻薬が無かったとなりますよね。


そしたら外から持って来なきゃならない。


でも伯爵の屋敷には在庫も作った形跡も無いのですよね。


しかも伯爵家の荷は厳重にチェックされていたとなると、外から入りようが無いじゃないですか。


もしかしたら伯爵を罠に嵌めるために、誰かが仕組んだとしか思えないです………」



「……………たしかにカーツの意見にも一理ある………


そうなると最も怪しいのは、今回の事件で最も得をした人間ってことか……………」


馬車の中で交わされる推理合戦を楽しんでいた皆が顔を合わせる。


「今回の事件に関与した人達を整理しよう。


まずはカーツ。ってことは無いか。


あんたを含めわたし達は巻き込まれただけだしね。


次に領主様。伯爵の不正を知りながらも、証拠が無くて困ってた。

腹黒い貴族なら伯爵を貶めることぐらいは朝飯前だろう。


それとイーグルさん。彼はあの後、領主様が管轄した守兵隊の隊長になったんだよね。


彼も得をしたひとりだ。」


「他にもいるぞ。あの街の2番手商会のヤルバスト商会ダ。


実際に麻薬を売り捌いていたウルフスタン商会が没落して、領主様の御用商会になったって話しダ」


御者席から、ぬうーと顔を出したラック座長が割り込んでくる。


その顔には何やら意味ありげな笑みが浮かんでいた。


「それじゃ、ヤルバスト商会が一番得をしたということですか!


もしかしたらヤルバスト商会が…………」


「さあナ、だが、全ては終わったことダ。それにこれはあの街の問題で、今度いつ来るかも分からない旅芸人が気に揉む必要なんて無いってことだナ。ハハハハ」


それだけ言うとラック座長は前を向いて鼻唄を歌い出した。


その後も、ゆっくり移動するフリーダム一座の馬車列を追い越していく数多の行商人達が次々と続報を齎してくれる。


カーツは思う。


座長の言う通り、真相が分かったからと言って旅芸人に何が出来るわけでもないのだから。


イーグルさんも出世したし、良心的な商売をしているヤルバスト商会が御用商人になった。


麻薬は姿を消して、街も平和になったのだから、これで良いんだよね。


でもね、少し気になることもあるんだ。


ラック座長とミーシャさんが、領主屋敷から戻って来てから、やたらとイーグルさんと仲が良かったとか、マリーちゃんがわたしのところに来た時に偶然売人がいたりとかね。


馬車の窓から顔を出したカーツの顔は少し眩しそうだけど、少しタレ目のその奧には次の街での美味しい海鮮物が映っているに違い無いだろう。

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