第3話 邂逅②
先生は、今も教師をしているのだろうか。もう50歳くらいのはずだ。
おそらく結婚しているだろうから、子供はいるかもしれない。
そして、あの事を憶えているのだろうか・・
踏切の警報音が止み、遮断機が上がると、バスはゆっくりと動き出した。
同時に私は大きな声で、
「森園先生ですよね?」と言った。
私が名前を出すと、先生はニコリと微笑み、
「憶えていてくれたのね」と言った。
「はい」
私は生徒のように答えて、「思い出すのに時間がかかりましたけど」と笑顔で言った。
「無理もないわねえ。私、すっかりおばあちゃんになったものね」
「そんなことないですよ。どこかのOLかと思いました」
「あら、おばあちゃんのOLだって大勢いるわよ」先生はそう言って笑った。
「僕の言った意味は、まだまだお若いということですよ」
そんな雑談を繰り返した後、
「北原くん、帰りは、いつもこの時間なの?」
どうしてこれまで会わなかったのかな? 先生は不思議そうに言った。
「車を車検に出してるんです。普段は車なんですよ」
「そうだったのね。今日会えたのは偶然ということなのね」
先生は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
お互いの近況を話すことなく先生は、
「北原くんの家、この近くなの?」と言った。
「いえ、まだちょっと先です」
「私は次で降りるの」
席を立とうとする先生に「まだ教師をしているんですか?」と訊こうとしたが、タイミングが悪くバスが停車した。
先生が立ち上がり、お互いの体が触れそうになると、微かな香水の匂いがした。それは懐かしい先生の香りだった。
「じゃあね」
先生は手を振って笑顔を見せ、そのまま昇降口に向かった。
今度会えるのは、いつになるのか、これっきりの再会だったのか、と思いながら、先生の後ろ姿を見送った。
外を見ると、バスから降りた先生が細道へと消えるのが見えた。
先生が降り、話相手を失った私は胸が高鳴るのを感じていた。
遠い昔の記憶が、コップから水が溢れるように蘇ってきたからだ。
高校生の私は森園先生に恋をしていたのだ。
それもあと少しで思いを遂げるところだったことを思い出した。
あの時、少し道を踏み外していたら、私の人生は180度変わっていたかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます