☆ この恋に、はちみつを絡めて

「宙くんのお姉さん、楽しそうだったね〜」


 二人で歩く帰り道、薬指の指輪に月の光が反射する。キラッと光る石が星みたい。

 付き合いはじめて一年の記念日にもらった宝物。


「うぅ……、ひどいよ。姉さん……」

「あはは、宙くんのこと大好きなんだね」

「野乃花さんの前で、あんな話しなくてもいいのに……!」


 どうも宙くんはお酒が入ると、弱気になるみたい。弱いから、って飲みたがらないから知らなかったな。


『噂の野乃花さんね!』なんてキラキラした目を向けられて、びっくりしちゃった。


「家族の前だとあんなかんじなんだ、って新鮮だった」


 二ノ宮くんのお姉さんたちを交えての挨拶も終えたし、もう少ししたら引っ越しだ。


「野乃花さんだって」

「あはは〜、弟がごめんね」

「無愛想って言ってたのに……、全然違うし」


 くすくす、とこらえきれないように笑う。実家うちに挨拶にきたときを思い出しているんだろう。


「愛されてるね、野乃花さん」


 どうやら、弟にはかなり前から魔法のことがバレてしまっていたみたい。

 心配させてたことにも気づかなかった。


「そう……なのかな? 昔は可愛かったのに」

「あれだけアピールしても弟扱いだったの、ちょっと納得したよ」

「あはははは〜」


 その節は本当にごめんなさい。


「でも、本当に私でいいの?」


 お仕事中の宙くんは三割増でかっこいいから、ときどき声をかけられてるし。こうした普段のへにゃっ、とした表情も可愛いし。

 せっかく選び放題なのに、私でいいのかな?


「また言ってる……。

 なら、次は宇宙人でも探そうか?」

「あははは、見つかるかな〜」


 おかしくなって、笑ってしまう。


『私の手品、実は魔法なんだ』


 ドキドキしながらの告白は、すんなり受け入れられちゃって、私の不安もぜんぶ聞いてもらった。

 どうにもできない使命だと思っていたのに、宙くんは病気とか男性不信とかじゃないことに安心したんだって。


 なんだか、拍子抜けしちゃった。


 それから、宙くんと一緒にダメ元で『私以外のすごい人』を探してみた。


 現役魔法少女に訓練中の魔法少年。霊能力者にしゃべる猫。異世界風の騎士さんまで――出会えただけでこんなに。


 私が知らなかっただけで、世界は思ったよりも広かったみたい。


 独りで抱えてるつもりだった魔法のこと。世界のこと。

 私だけが戦う理由も、平和と幸せのどちらかを選ぶ必要もなかったんだね。


「まさか、宙くんとこうなるなんて思わなかったな〜」


 むしろ、ずっと独りかも――なんて本気で思ってたのに。


「俺は、最初からこうなれたらいいな、って思ってたよ」

「最初、って……? 市場調査に誘ってくれたとき?」


 宙くんがイタズラっぽく笑う。

 大人ぶってるより、こういうちょっと子供っぽい顔が素なんだと思う。


「ふふ。もっと前。店で泣いてる子供に手品を見せてくれたことがあったでしょ?」

「どうだったかな〜?」


 うっかり魔法がでちゃうのも。子供にこっそり魔法をみせちゃうのも。

 どっちもありそうで、ぜんぜん覚えていない。


 たしかに、市場調査に誘ってくれたときには顔見知りだった気もするし……。

 切羽詰まった顔でパティシエさんが困ってたから、協力することにしたんだよね。


「そうやって、すぐ他人ひとのために動く優しいところが好きなんだけど、さ」


 ちらり、と視線がこちらを向く。


「俺以外にも、気づかないうちに狙われてそうで心配だよ……」

「性分なのかな? あはは」


 はあ、とため息をついて、私を胸にぎゅっと強く抱きすくめる。

 人通りがないとはいえ、往来だ。


「宙くん、ちょっと!」

「だって……。放っておくと飛んでっちゃう気がするから」

「おおげさだよ! それに」


『ぽぽんっ』と魔法の花が咲く。


「……どこに行っても、ちゃんと戻ってくるから」


 はちみつ色の満月の下、くるくる舞う魔法の花。


「ずっと一緒にいてね、宙くん」


 泣きぼくろのある目尻が優しく下がって、額に優しい口づけが落ちた。

 どちらともなく笑いがこぼれ、指を絡めて歩きだす。


 これからもなにがあっても、ずっと。ずっと。


 一緒にいてね。宙くん。

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恋はチョコのように、魔法のように 今井ミナト @wizcat

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