第48話 回顧録と娘の成長
◇回顧録 幻想郷 父の姿を追って
小学四年生になったとき、二分の一成人式なるものがあった。
そのとき、クラスで将来の夢を発表するという授業があり、それの参観に来てい保護者達。そのなかに、作業着姿のすすだらけの父の姿があった。
志桜里は誇らしかった。自分のために忙しいなか時間を割いて来てくれたのだから。
そして将来の夢を発表する番が、志桜里のもとに来た。
志桜里はゆっくりと立ち上がり、持っていたノートをめいいっぱいに広げて、読み上げた。
「私の夢は、お父さんに楽をさせてあげることです。いつも苦しそうに、辛そうに帰ってくるお父さんを、私は見るのが辛いです。だから、お父さんの心を癒せるような、そんな自分になるのが夢です」
大きな拍手が轟いた、主に保護者からの、司馬家への応援の意味がこもっているであろう拍手だった。
父の顔を見た。父は泣いていた。みっともなく、泣いていた。
そんな父に、志桜里はグーサインを出した。やったよ、と。
それを今更思い出していた。そうか、自分がカウンセラーを目指していたのは、香帆のためでもあったけど、同時に父のためでもあったんだ。
「お父さん——」
顔面にもすすが付いていた父が、こちらを見た。そしたらいつものぶっきらぼうで、「来たんだな」と言った。
「ちょっと話が出来ないかな? 大切なことを思い出したんだ」
「ちょっと待ってくれ」
そのあと父は溶接をこなし、ニ十分後、客室へと招いてくれた。
「これ、取引先から貰った羊羹でな。食べたらすごくおいしかったんだ」
「お父さん。真面目な話なの」
急須からお茶を酌んで、羊羹を切り分けている。その際も一切志桜里の方を見ようともしない。
まるで志桜里から逃げているような父の態度にしびれを切らしたので、自分は、
「私、将来の夢があるの。それはカウンセラーになることなの」
「……」
「もちろん、許嫁にもなる、向こうの親御さんにはこの会社に便宜を図ってもらえるように言う。でも、その夢だけは叶えさせてほしい」
「どうして、その仕事なんだ」
「大切な人を、誰よりも近くで支えられるから、かな」
※※※
真剣な表情の志桜里の顔に、面食らった父親。言葉を失い、次に言葉を探すも出てこない。
本当に、大人になったんだな。
娘の意外すぎる成長に思わず涙ぐんでしまう。
「ありがとうっ」
すると小首を傾げる志桜里。「なんで泣いてんの」
「娘の成長を喜ばない父親がどこにいる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます