第15話 麦わら畑の親友のお兄さん
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その日、音楽を聴いていた。
旋律と、ピアノのメジャーとマイナー。それらが心地の良い風の便りになってイヤホンから流れる。
すると、ことんと窓に小石が投げられた。誰だろうと思って外を見ると、とある青年がいた。
誰だろう。窓を開ける。
「おーい、志桜里―!」
すると、一瞬の合間に記憶が駆け巡った。
それは麦畑で駆け回る幼い日の少年と志桜里。
そして近くのベンチで休みながらうまい棒を、その少年と食べる。
自分は、その少年のことが好きだった。でも、それは恋愛感情ではない。
そう確信していた。
あの麦畑の香りが鼻孔をかすめていくような気がする。
でも、今の今までなんで忘れちゃっていたんだろう。
その青年は志桜里が一時期北海道にいるとき、夏のときに植える麦畑で一緒に遊んだ同い年。
名前は藤原巧。
「中、入ってもいいかな?」
「勝手にしなよ!」
「そうさせてもらう」
藤原はドアを開けて玄関先でお母さんと談笑している。
ふぅ、と志桜里はずるずると壁に沿って床に腰を落として、息をつく。
「どうして、藤原君が来たんだろう」
すると階段を上がる音が聞こえた。扉が開いて機嫌がいい顔を見せてきた。「久しぶりだな。まったく、その憂鬱な顔は元からか?」
「藤原君こそ、七年ぶりだというのに。あんまり変わらないね。でも、どうして急にこっちに来たの?」
「志桜里に会いたくなったんだよ」
そんな理由で? それだけで北海道からわざわざ?
志桜里は笑ってその善意に応える。ありがとう、と。
「だからさ、旅行に行かね?」
「旅行?」
巧は頷いた。「北海道にさ。またあの麦わら畑で遊ぼうよ」
「もう私たち、大人だよ。そんな子供みたいな遊び出来ないって」
大人だったら自殺しようなんて思わないだろ、とぼそっと巧が言ったのが聞こえた。それに少し眉根を引き寄せる志桜里。「どういう意味なのかな?」
「いや、なんでもない。じゃあしばらくはこっちのおじさん達に世話になるわ。よろしくな」
「う、うん」
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