第6話 怒りor焦り?

「あたしは部活が有るから。帰宅部の白井は何か用事ある? 」


 学校の授業が全て終了し、帰りのホームルームの後に訪れる放課後。教室は授業から解放されたことで気分が高揚したクラスメイト達の雑談や盛り上がりの声で騒々しい。


 剛志も学校から解放された気分を堪能し、些か達成感を味わっていた。


「帰宅部を言う必要あるか? このまま自宅に直帰の予定だ」


「直帰なんて予定が無い物じゃない」


 葵は目を細めて怪しむように剛志を凝視する。


「悪かったな。大した用事が無くて」


 剛志は反論したい気持ちを少なからず抱いたが、葵との言い争いのリスクを避けるために敢えて言い返さずに返答する。


「べ、別に悪いとは言ってないじゃない。変な解釈しないでくれる? 」


 葵は少し動揺した素振りを見せ、不満げに腕を組みながら剛志から視線を逸らす。


「分かった。分かったから。ごめんね。変な解釈して」


 剛志は僅かに葵との対応が億劫になった。そのため自身から進んで謝って葵の機嫌を取ろうと試みる。


「謝罪なんか要らないわよ。ただ変な解釈は勘弁して欲しかっただけ」


 葵は素っ気ない態度で剛志からの謝罪を拒否する。


「分かった。話は変わるが部活の時間の方は大丈夫なのか? 俺とのんびり話をしていて大丈夫なのか? 」


 剛志は葵の注意を引くように教室の時計を指差す。


「えっ。っていけない。もうこんな時間!! もう行かないと!!! 」


 葵は慌てた様子で剛志に別れの言葉を伝え、駆け足で教室を後にした。


「やれやれ。全く色々と忙しい奴だな」


 剛志は大袈裟に肩を竦める。


「俺も帰るか」


 剛志は話し相手が消えたことで、帰りの支度の続きに着手する。


 数秒で帰りの支度を完了すると、葵とは真逆で落ち着いた歩行で教室を退出する。


 階段を降りて1階の昇降口に行く前に飲み物を買うために人気のない自動販売機が並ぶ場所に向かう。


 昇降口の横を通過し、徐々に人気や騒々しい声は減少する。


 剛志が1本の通路を進み続け、目的の場所が見える。4台ほど並列する自動販売機の青い光が目印となる。


「ねぇ! どうして他の女子とも仲良く遊んだりしてるの? 雅也君の彼女は私だよね? なのにどうして私よりも他の女の子と多く話したり遊んだりするの? 」


 剛志が後少しで自動販売機の場所に届くタイミングで聞き覚えのある声が彼の鼓膜を刺激する。


(なんだ? )


 剛志は突然の大きな声に驚きつつ、直近の木に身を隠す。そして、恐る恐る声の音源の自動販売機前に視線を向ける。


(あれは!? 夕愛と時谷? )


 夕愛と雅也が自動販売機前で対面する形で佇む。


「うっせなー。別に俺がどんな女子と話そうが遊ぼうがいいだろ。もしかして、お前は束縛系女子か? 」


 雅也は面倒臭そうに髪を掻きながら苛立ち口調で答える。


「そんなことない…と思うけど。雅也君にとって普段の女子に対する態度や遊び方は当たり前のことなの? 」


 夕愛は弱々しく不安そうに雅也の目を見つめる。


「ああ。俺は当たり前のことをしているだけだ。俺にとって彼女が居ようが居まいが他の女子と仲良く話すことや遊ぶことは自然なことだ」


 雅也は特に迷った表情を見せずに悪びれずに堂々と断言する。


「そ、そうなんだ。知らなかった」


 夕愛は落ち込んだように雅也から視線を外してから俯く。


「そうか。なら覚えておいてくれ。それと今日は仲の良い女子と遊ぶ約束が有るんだ。だからそろそろ良いか? 」


「う、うん。ごめんね時間を取って」


「ああ。次回から出来るだけ俺に不毛な時間を体験させないでくれ」


 雅也は夕愛の返事を待たずに自動販売機前を後にする。


 夕愛は独り取り残される形となった。

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