第5話

「災難だったわね、クス」



しばらくの静寂の後、ランファンさんの斜め後ろでほくそ笑みながらレイファは肩を揺らして、あろう事かそのまま笑い転げんばかりに笑った。




「……一発殴らせて」


「それ、私に言ってんの?」



そうだよ、今、あんたが一番殴りたい。


私が立ち上がる素振りを見せると、ランファンさんがテーブルを蹴って、怒鳴った。



「やめなさいっ」


「……」


「……」



ランファンさんは、プイッとレイファを一瞥して「貴方も座りなさい」と声をかけた。




レイファはちょっと肩を竦めた後、ランファンの隣の席に着いた。


それを待って、ランファンさんは語った。



「皆が暴走しちゃって、滅茶苦茶の無茶苦茶。台本通りに動いてくれないから、危うく死にかける、殺しかける、殺されかかる。憎む、傷付ける、やらなくても良い事ばっか。誰に言っているか分からないとは言わせないわよ。一番私達の筋書きを狂わせたのは、ストーリーテラー(物語の進行役)だった、貴方なんだから」


「……すみませんでした」



「本気で死のうとする。 筋書きを知りつつ、自分の思い通りに私の筋書きを捻じ曲げる。 反逆行為は、一度きりにして。次同じ事したら、もう私は貴方の上司を降りるわ」



「致し方ない事です」



レイファはそう言って、バツの悪そうな顔で、私とウェイを見比べて言った。


その時には、『悪魔の顔』になっていた。


そうか、『彼女はこれが素なのか』そう思うとゾクゾクした。


よくこんな女性を恋人にしてたな、2年も……。


まぁ、ウェイの女性の好みに興味はないから良いけど。

(強いて言えば、私を好きにならないで欲しかった事位)



「二人とも、オモチャとしては最高過ぎて。夢中で遊び過ぎちゃった……」



「で、顔や腹に傷を付けられて、レイプされて、サクラに脚で刺されて、ハルキにまで刺された?」



ランファンさんが、憎々し気に言った。



それは、災難に見舞われた誰か悼むものではなく、自分の筋書きを狂わせた事に対してへのものに聞こえた。




「あぁ、彼も面白かった。心の底から嫌いだけど」



それって、ハルキの事?


どんだけ、イカれてんの?



「後始末はしたでしょう?」


「その後始末も大変だったんだけど? まぁ、あんたには死んで貰う事にして。お金になったから良いけど……」



後始末って何? 最後、お金になるって何?


……リアンに気絶させられた隙に、レイファを酷い目に遭わせた奴らの事かな?



聞くのが怖い。



「あぁ、そう言えば、あの子も楽しかった。隼 桜(スゥン イー)より小さいのに、同じ位、面白くて可愛かったな。私に同情して手加減して来るから、本気でやっちゃった」



梁 鋭(リアン ルイ)の事?



「飛んだ孫悟空ね。釈迦の手の平にしてられると思って油断した事が私の手落ちだったにせよ……。まぁ、寝首を掻く位の実力のある奴が欲しいとは思って育てたんだからね……」



ランファンさんはそう言って、ポケットから煙草を取り出した。


私はすかさず言った。



「すいません、煙草、嫌です」


「……あぁ、悪かったわね、お嬢ちゃん」



『お嬢ちゃん』




何か引っかかる。私、前にも言われた様な……。

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