第6話

 チューチュー以外のヒューマノイドと同行するのは、もう随分前のことだった。

 隊列の最後尾を歩きながら、脳裏に浮かんだ昔の出来事を片付けて、ため息をつく。


 チューチューが軽く笑った。


「あなたが人見知りなのはわかっていますけど、少し我慢してくださいね」


 僕は頷いて、心の中の鬱屈を振り払おうとする。


 地下鉄内、壁面には微かな光を放つ苔が生え、湿った光を反射していた。


 先頭を歩くミカが大声で叫んだ。


「一匹そっちに向かってきたよ!」


「了解」


 ミカの呼びかけを聞いて、チューチューが一歩下がって僕を守るように立った。

 チューチューがわずかに首を傾けると、曳光弾が彼女の先ほど立っていた場所をかすめていった。彼女は逆手で長剣を振り、一発目を軽く受け流した。弾丸と剣身がぶつかり火花が散る。

 チューチューが素早く蹴りを放ち、宙に浮かんでいた敵を回し蹴りで地面に叩きつけた。


 それは僕の四分の一ほどの大きさの小型魔機だった。粗雑に作られた丸い頭部、ブンブンと音を立てる羽、爪楊枝のように細い足。足の間には小さな銃口が突き出している。魔機は蹴りのショックからすぐに回復できなかったらしく、もがいて起き上がろうとしていた。


「【オーダー:リパルションフォース、エミット、プロジェクション】」


 聖女が手に持つ杖を掲げた。杖の先端にコイルのような光輪が形成され、小さな金属球が排出された。ブンという音と共に金属球が高速で飛び出し、敵を粉々にした。


 チューチューは素早く懐に手を入れ、ミカの方へとナイフを投げた。

 シュッと音がし、苦しげなうめき声が聞こえた。ミカの側面を奇襲しようとしていた魔機が片目にナイフを食らっていた。


「ありがとうございます!」


 ミカが叫び、一回転して自分を挟撃していた魔機を両断した。倒れた魔機が地面に落ち、しばらく震えた後、動かなくなった。


「剥ぎ取りの時間だ!」


 エリアは語尾を上げながらナイフを魔機の装甲の隙間に突き刺し、こじ開けた。彼女は残骸からいくつかのカプセルを取り出し、確認した後で頷いた。


「燃料棒!良い触媒だね」


 ミカは先端に二本の鋭い針が付いた管状の装置を取り出し、後ろの水袋に接続した。装置の先端を魔機の循環管に差し込み、しばらくすると水袋が少し膨らんだ。


「こちら、何でしょうか?以前は見たことがない装置ですね」


 チューチューが尋ねた。


「ああ、こちらは濾過器です」


 ミカが笑顔で答えた。


「遺跡には水が少ないですが、魔機は多いので、これで魔機の循環液から不純物を取り除いて飲める水にするのです」


「ほう、なかなか面白い代物ですね」


「時代は進んでおります。人間様の遺産に感謝しなければなりませんね。この装置も獣の国が昔の遺物を解析して発明したそうです。獣の国は砂漠地帯で、水は不足しておりますが、魔機は豊富ですからね」


 ミカが「ポン」と音を立てて濾過器を抜き、前方を指差した。


「とにかく、もう少し歩けば、前方のボス部屋を抜けた後、プラットフォームに出るはずです」


「いえ。今日はここまでにしよう」


 チューチューが言った。


「まずはキャンプを張って休みましょう。明日、守衛を突破いたしましょう」


 エリアが抗議した。


「今休むなんて、まだ早いよ!まだまだいける!」


「エリア、チューチューさんの経験があるから、彼女の言うことを聞いて」


「むぅ……わかったよ!」


 合意が取れた後、チューチューは周囲にレーザーを放射する動作感知器を設置し、エリアは手慣れた手つきでテントと焚き火を設置した。ミカは乾パンを分配し、焚き火に置いた鍋にチーズやパンを入れて、即席のスープを作った。


「ほんと大変だな。聖都線の終点からここまで来てもう三日目か。風呂に入りたいよ。エリア、お湯出せないの?」


 ミカが苦笑しながら言うと、エリアが鼻を鳴らした。


「あんなの高価なんだよ。軽装備の私たちには、そういう遺物はないんだから。濾過器があれば感謝しないとね」


「このルートはまだ楽な方ですね」


 チューチューがスープをかき混ぜながら言った。


「北のルートは電解液の沼地もあったはずですから、そこで野宿するのは本当に辛いです」


「確かに。北のルートを選ばなくてよかったですね」


 ミカが頷いた。


「この地下鉄の遺跡は比較的綺麗で、魔機からも良い素材が手に入りますね」


「ところで、お二人は聖都から来られたようですが、なぜ辺境のアライドヴァに?」


 チューチューが尋ねた。


「よくぞ聞いてくれた!」


 エリアが得意げに胸を張った。


「私たちは聖堂の大主教様の命令で、未来の勇者、レオナ・レイヤ・イストアルチェの仲間になるためにここに来たのさ!あんたたちの目の前にいるのは、将来魔王を討伐し、歴史に名を刻む勇者一行!」


「……ビージェー様」


「しー」


 チューチューが僕の方を見た。どうやら僕たちは家に送られてきた棺を思い出しているようだった。僕はチューチューに黙っているよう合図した。


 手を振り回しながら高らかに語るエリアを無視して、ミカはスープを飲み干した。


「とにかく、見張りの順番を決めましょう」


 僕もスープを飲み終え、食器を片付け始めた。

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