激熱ラブ
昨夜の美玖は凄かった。これは旅行先の宿であるのもあるだろうし、あんな話をしたのもあるかもしれない。あれはまさしく初体験の反応としか思えなかった。覚悟を決めて男に身を委ね、恥じらいながら男の愛の行為を受け止め耐えているとしか見えなかったもの。
結ばれる時もそうで、それこそ歯を食い縛り、シーツをつかんで耐えに耐えていたもの。もっとも美玖に初体験の痛みはない。痛みがないどころか、いつも通りに感じていた。当たり前か。ただ真実の愛を見る時の反応はとにかく感動的だった。
どう言えば良いかな。未知の感覚に戸惑い、ついに達してしまったようにしかボクには思えなかった。朝もどうにも妙な感じで、顔を合わせるのもどこか気恥ずかしいんだよな。そそくさと逃げ込む様に大浴場に朝風呂を浴びに行ったもの。
風呂から上がると昨日夕食を食べた部屋で朝食。旅館にはこれがあるのも魅力だ。これだけの朝食を家で用意するのは無理だもの。食後のコーヒーは部屋で頂く事にして、美玖に昨夜のことを聞こうとしただけど、
「聞かないで下さい。まさか、あそこまでになってしまうとは・・・」
そこからポツリポツリと話してくれたのだけど、やはり美玖は初体験の感覚だったで良さそうだ。
「どうか笑わないで下さい」
男に初めて身を委ねる怖さと恥ずかしさ。一方でどうしても結ばれたいの思いが渦巻いていたのか。
「もう慣れ切ってるはずなのに、剛紀に触れられるだけで心臓が爆発しそうでした」
震えてたものな。ドッキングしてからは、
「こんな体になっていますから入れられる痛みはなく喜びしかないのですが、良く知っているはずの体の反応がなぜか新鮮で、まるで初めて男に感じたようにしか思えないのです」
ボクにもそうとしか見えなかった。あれって、
「言わせるのですか。昨夜で美玖は初体験から、初めて真実の愛を見るところまで一気に経験しました」
やはりか。
「それが本物でないのは良く知っていますが、美玖にはそうとしか感じられなかったのです。美玖の、美玖の夢が叶いました。気分だけでも剛紀に捧げたかったものをようやく捧げられたと思っています」
たしかに美玖の捧げものをボクは受け取ったぞ。昨夜の美玖は心も体も無垢だった。そんな美玖を目の前にしてボクの頭の中にも何が何でも結ばれたいしか無くなっていた。でもこれって昨夜話していた二人の愛情温度の極限状態じゃないのか。
「ここからどうなるかなんて、それこそ経験しないとわかるはずもありません。あえて予想すると・・・」
一つはこの状態が延々と続く可能性か。初体験より前に戻るのはどう考えたって無理があり過ぎるから、これからもベッドに臨むときに美玖は無垢の心になり、初体験のドキドキから真実の愛に達するのを繰り返すとか。
「それはそれで想像するだけで素晴らしすぎる世界です。ですがもう一つ可能性を考えています。それはここから始まる事です」
二人が初めて結ばれる時は愛情温度がかなり熱い状態だけど、普通ならここから結婚までさらに愛情温度を高めるはずだよな。けどさぁ、スタートからこの熱さならどうなるんだよ。
「どうなろうとも美玖は剛紀の妻です。すべてを喜びとともに受け入れます」
それしかないか。そこから帰路のために着替えたのだけど、こうなれたのは美玖の熱すぎる想いじゃないかと感じたんだ。美玖はボクと同類で惚れた相手に溺れ込み、結婚しても旦那ラブ以外には考えられなくタイプなのは良く分かった。
それでも男と女は違う。ボクは美玖に童貞を捧げられなかったのになんの後悔もこだわりもない。むしろ二人とは言え美玖の前に女を知っておいて良かったと思うぐらいだ。だってだぞ、この歳で童貞はいくらなんでもだろうが。それより何より、童貞じゃ美玖を満足させる自信がない。
だけど女は初めてへのこだわりが男より強い気がする。もちろん個人差は大きいだろうけど、美玖がこだわるのは良く知っている。いくらこだわっても体は元に戻らないけど、可能な限り戻したのが昨夜じゃないだろうか。
そんな事は出来るはずもない事だけど、美玖のそれでもなんとかの願いが叶ったで良いはずだ。もちろん青い時代の無垢な心と体には絶対に戻れない。戻れないけど、なにより重要な事は美玖がそうなれたと感じ、ボクに捧げたかったものを捧げられたと満足したことのはずだ。
この先がどうなるかは美玖の言う通り、もう予想すら付かない。わかるのはラブラブ夫婦どころか、激熱夫婦になるぐらいだ。それへの不安とか、不満はない。どんなに激熱になろうが二人はもう夫婦なんだよ。
どれだけ夫婦仲が良くても倫理的にはなんの問題もないし、公衆の面前でやればマナー違反になるかもしれないが、家でどれだけイチャついても夫婦の勝手だ。やっかみするのは出て来るだろうけど、それはてめえの夫婦仲とくらべての僻みだ。
さて帰るか。バイクに荷物を積み込んだのだけど、そういう目で見るせいか、美玖に初めて男を知ったかのような初々しさが溢れてる気がする。ボクもまた美玖を女にしたぞって誇らしさがどうしても湧き起こってしまう。
帰路はこのまま氷上に出て国道一七五号を南下する事にした。これも思ってた以上の快走路だ。快調に南下しながら他愛無い話を。と言うのもボクも美玖も青い時代の恋の経験が乏しいのだよね。
「中学校から男子校の剛紀と同じにしないで下さい」
ぎゃふん。美玖は共学だし、高校時代の美玖はモテてるものな。でも美玖だって高校時代どころか大学時代でも本格的に付き合った彼氏はいなかっただろうが。
「そんな事はともかく、あの青い時代に結ばれたカップルにはどこか憧れるところがあります。もちろん、結ばれたからと言っても必ずしもハッピーエンドでない現実は良く知っています」
なにがハッピーエンドかも言い出したらキリがないだろうけど、青い時代に結ばれても目指すのは結婚だろ。そこまでの時間もかかるし、たとえ早くに結婚できてもそれはハッピーであってもエンドじゃない。
なぜかって。そんなもの結婚してからの方が長いからだ。美玖との夫婦生活だってまだまだ始まったばかりだ。本当の幸せは夫婦になってから掴む物のはずだ。けどな、世の中に結婚して夫婦になっているものなど掃いて捨てるほどいるけど、
「それでもミステリーに満ちています」
今でさえ夫婦生活を経験してみないとわからないのは日々実感してる。それでも青い時代の結婚のイメージはハッピーエンドとして良いだろう。そのゴールに向かって交際が始まるのだろうけど、そこで結ばれるところまで進めるのは羨ましかったし憧れだったよな。青い時代の恋って社会人の恋と似てるけど、やはり違うと思う。
「綺麗ごとで言えば、無垢の魂が求め合い結ばれています。そんな魂で恋できるのが青い時代だと思っています」
あれって経験したかったな。
「そういう事は経験してから言うものです。悲しいですが、夢や憧れと現実の乖離を知ってしまうのがこの歳になると言う事です。ですから青い時代の夢や憧れだけを見続けるのもまた人生だと思います」
美玖も言うな。人は夢や憧れを持つし、夢や憧れを実現させたいと願う生き物だ。だがその夢や憧れもすべて実現させるべきかは微妙な時もある。
「いずれにしても美玖にも剛紀にも手の届かない夢であり憧れです。それでも昨夜は美玖のすべての夢と憧れを今出来る範囲ですべて実現させたと思っています。それとわかったのですが、最高の夢は青い時代の夢と違うはずです」
美玖の新たな夢かな。
「美玖の夢は今です」
今ってバイクで走ってることか?
「それも含めてすべてです。わかりませんか。剛紀の妻として生きることが夢の中であり、この夢は嬉しいことに醒めそうにありません」
それはボクも痛切に感じてる。美玖とは結婚したいと思ったし、結婚出来て本当に良かったと思った。でも不安だったのは結婚したらどう変わるのだろうはどこかにあった。その手の話はテンコモリ聞いてるからな。
この手の話の根本の原因は同じ相手ならいつか飽きが来るで良いと思う。いわゆる倦怠期ってやつだ。いつの日か美玖もそういう目で見、美玖もまたボクをそういう風に感じる日が来てしまうのじゃないかって。
これもいつの日か来るのかもしれない。だけど当分は来そうにないのだけは実感でわかる。今だってボクは美玖に夢中だし、美玖だってそうのはずだ。二人の愛情温度はラブラブ夫婦どころか結婚式の時より熱いとしか思えない。
さらにだぞ、まるで初めて結ばれ、これから燃え盛ろうとするフレッシュさが満ち溢れている。まさに激熱ラブの激熱夫婦じゃないか。それにだぞ、この激熱の温度だって超激熱になる可能性だってある。これを夢の中と言わずしてなんと言うかだ。
「ところでお昼は播州ラーメンにしませんか」
それ良いな。またツーリングに行こうな。
「はい」
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