3対3

第44話 それぞれの戦い

 ――キンッ!


 金属音が幾重にも重なってこだまする。

 守晴はドラゴンたちの猛攻に耐え躱し、更に一閃を見舞うための隙を探す。物理的な一対二の構図は守晴の不利が明らかで、αは余裕の笑みを浮かべてドラゴンたちに指示していた。


「まだまだじゃないのか? 守晴」

「くっ……。当然、だろうが」

「簡単に力負けしてたら、面白くないだろ?」


 αの指示で、ドラゴンたちがスピードを速める。夢世界という疲れのないはずの世界だが、守晴は己の体の傷や息の上がり具合に焦りを感じていた。打撲や切り傷、擦り傷は数え切れないほどある。こんな戦いは、夢世界において一度もなかった。


(落ち着け。Σのことは一旦忘れろ。今は目の前の……)


「隙あり」

「ぐっ……!」


 背中に打撃を受け、息が詰まる。衝撃のまま横転し、守晴はすぐさま立ち上がろうとした。しかし思わず咳き込み、体が言うことを聞かない。


「けほっ、けほっ」

「……やはり、ただ人は弱いな。ちょっと空間をいじれば、お前たちは適応出来ずに本来の力など出せなくなる」

「なに……を」

「……こちらの話だ」


 淡々と話を流し、αはドラゴンに更なる口撃を指示する。ドラゴンたちの口元に赤と白の光が無数に集まり始め、何かが起こると示唆した。


(体、動け……!)


 与えられた時間は僅か。守晴は無理を承知で体を叱咤し、ふらつきそうになりながらも立ち上がる。仲間たちはどうなっているかと気にして見れば、二人共懸命に応戦していた。


「くっそ! 一回くらいまともにあてやがれ!」

「まだまだ驚かせてみろよ、鈴原巧」

「あなたたちは、わたしたちが必ず止める!」

「そんなにボロボロなのに? やれるもんならやってみな!」


 巧の怒号、幸時の覚悟。それぞれの声が守晴の足を支え、背中を押す。


(おれたちは、まずこの夢世界を主の元へ返す!)


 動け、と念ずる。自分の体が警戒に動くことを想像し、それを自分で体現するのだ。間近でドラゴンのパワーチャージが進み、もう時は残されていない。守晴は息を吸い込み、気迫と共に痛みを訴える体をコントロールする。


「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「――っ。マジかよ」


 面白いじゃん、お前。αが笑いながらドラゴンに攻撃発射を命じた。しかしドラゴンたちの照準が定まるよりも速く、守晴が上を取る。

 トンッと軽い音を響かせ、地を蹴ったのは数秒前。真剣な面持ちで守晴は狙うべき場所を把握し、思いを籠めて剣を振り抜く。


「いっけぇぇぇっ」


 およそ、普段の守晴からは考えられないような声だ。守晴自身も、自分は教室の隅や図書室で本を読んでいるようなイメージだと思っており、まさにその通りでもある。

 しかし今ドラゴンを斬ろうとしているのも、まぎれもなく守晴自身。大切な友だちであり仲間との約束を守るため、すべき役割を全うするための一撃だった。


「――っ、迎え撃て!」


 折角貯め込んだパワーは明後日の方向に飛び、ドラゴンたちは少し慌てて上を向く。その初めて生まれたわずかな隙を、守晴は見落とすわけにはいかなかった。


(想像しろ。この剣が、ドラゴンたちの頭を斬る瞬間を!)


 二頭の大きな口が、守晴に向かって近付いて来る。同時にドラゴンたちに守晴の一撃が接近し、二つはぶつかった。


「ギャアアアアアアァァァァァッ」


 守晴の迷いない一撃は一頭の顔に真正面からあたり、けたたましい断末魔を上げさせた。二頭同時に倒す予定だったが、そこまで戦の女神は優しくないらしい。


「――っ」

「グルル……」

「貴様ッ」


 守晴が着地すると、背後の空で一頭が弾けるように消えた。片割れを失ったドラゴンが、すぐに守晴に向かって重低音のような声で呻る。更にαが怒りの声を上げ、同調したドラゴンが素早く貯めた力を吐き出す。


「うわっ」


 己を守るための障壁を築いた守晴だが、その障壁は使われない。何故ならば、何処からか吹き飛ばされて来た黒虎がドラゴンの前を遮ったから。突然の邪魔に驚き、パワーが四散する。

 守晴は目の前に落ちて来た虎が呻いているのを見下ろし、驚いて目を見開いた。


「何が……」

「葛城くん!」

「桃瀬さ……って、しーくん!」

「がぅ」


 守晴の前に降りて来たのは、獅子のしーくんだ。主である幸時はと思い声のした上を向くと、しーちゃんに乗った彼女が守晴を見下ろしている。


「倒したよ、一頭」

「……ああ、おれも」

「うん、見てた! 気を緩めずに行こう」

「おう」


 短い会話の間に、地面に落ちて来た方の虎はしーくんにとどめを刺されて消え失せる。黒い光の粒となって消えた片割れを悼むことはなく、残った黒虎はしーちゃんに飛び掛かった。


「しーちゃん!」


 幸時の指示を受け、しーちゃんが口から火炎を放射する。更に追い打ちをかけるように、怯んだ相手にしーくんが氷の粒を叩き付けた。


「まだまだ行くから!」

「――っ。小癪な」


 βが顔を赤くして、黒虎に指示を送る。それに応じ、幸時もしーちゃんの動きを変えた。しーくんも加勢し、三頭の戦闘は激しさを増した。


「――おれも」


 ドラゴンはあと一頭、そしてαも残っている。守晴は攻めに転じることに決め、一気に片を付けようとαとドラゴンと対峙した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る