クラウンオブザワンダーランド①


神秘的で荘厳な大神殿を出たらこの世の地獄が待っていた。

大神殿は一番高い位置にあるのでこの最深部をある程度は見渡せる。


六つの巨大なミミックが四方を囲んでいる。

見覚えのあるミミック・ボックスがあったパペットポックスだ。


他のは分からない。箱の色やカタチが違うので別物だというのは分かった。

種類があるのか。


「って、あのパペットボックスの位置は!?」


野営地付近じゃないか。

アクスさんたちは無事か。


僕はとりあえず弱ったミネハさんを丁寧に使っていないハンカチで包んだ。

そして仕方がない。ポーチへ慎重に入れ、アクスさんたちを探す。


だが大仰に出来ない。静かにゆっくりと慎重に大神殿を離れる。

既に周辺に無数のパペットたちと移動型のミミックが彷徨う。


設置型のミミックも点在していた。無駄に豪華なので分かりやすい。

更にスケルトン。リザードマン。コボルト。スライムと魔物もうろついている。

触手も何故かそこらから生えていた。


【危機判別】からだと真っ赤と黒の危険地帯。本当に地獄だ。

さっきまで殆ど何もなかったのに。


西の神殿街近くまでなんとか来れた。

縦に一直線に深い人工の溝があり、埋めるように色々な白い建物が詰められている。

近くは瓦礫だらけの通路。廃墟が多い。


溝なので入り口はない。上から階段で降りて入るようになっていた。

変わった街だ。


アレキサンダーさん曰く神殿街は信徒の街。

信徒や神官の家族とかが住んでいたらしい。

そして神官たちは神殿の居住区で暮らしていたとか。


神殿街を通り過ぎて瓦礫通路を慎重に瓦礫に隠れながら進む。


「にしても何がどうなって、うわぁっ!」


いきなり移動型のミミックが襲ってきたので【バニッシュ】で排除する。

するとパペットに見つかった。逃げながら何体か倒す。

ミミックよりパペットの方が倒しやすい。ナイフでもやれる。


「……無事だろうか」


焦る。早く戻りたいが、ただでさえ距離があるのにこう邪魔が多いと時間が掛かる。


「ん?」


ふと剣戟が聞こえた。誰かが戦っている。アクスさんか? 

ん? あれ。瓦礫の上から剣が空を舞っている。

あっ、あの一体形成されたブレードは!?


「……そらの型……すばる……ケライノブレード」


それは剣の軌道ではあり得ないほど歪曲して直角の斬撃だった。

パペットをまとめて数体切る。

というか今の技って今の声って! まさか!?


「……ん。ルピナス……任せた……」

「今ですわ! ビッド!」

「ウチ!? あーもう、人使い荒いっス!」


背後から声がして振り返ると、誰かが僕の真上を跳んだ。

空中で短弓から無数の矢を放つ。

ミミックやパペットに何発も命中し、何体か倒れた。


この3人は……いったい。

まず1人目。光るショートカットの薄桃色の髪をした眠そうな美少女はリヴさん。

黒ジャケットに相変わらず世界観を崩しそうなスペースな白いボディスーツ姿だ。

2人目。白い全身鎧と丸い大盾を背負ったエルフの美女。

誰だ。あっルピナスさんだ。

彼女を見たのは街中で見掛けたあのとき以来だ。


それと3人目。僕を跳び越したホーランドロップイヤーの女の子。

この子はまったく見覚えはない。

黒髪の兎種。大きな青い瞳でソバカスがあり、愛嬌のある可愛い顔立ちだ。


革製の籠手を右腕に付け、青いジャンバーに黄色いシャツと軽装だ。

それと黒いスパッツを履いていた。


スパッツじゃないけど、材質とか伸びるとか薄いとかピッタリしているとか。

スパッツにかなり似ているので僕はそう呼んでいる。

スパッツから見える尻尾は何故か白く丸い。


ビッドと呼ばれていた。彼女も探索者だろう。

えーと確かもう一組参加していた、そのメンバーだと思う。

いやでも、どうしてここに……?


彼女たちはハイドランジアの街のダンジョン。

そこで異変討伐をしているはずだ。

それがどうして無関係のダンジョンの最深部に居るんだ?


「いや待てよ……」


この謎の展開。唐突なのはどこか覚えがある。

あれ、パキラさんは?


「ん……よく……やった。ビッド……」

「露払いぐらいは出来ましたわね」

「あーもう、どうなっているっスか。ここ何処っス? リーダーどこっスか? クルトンやロモモはどこっスか!」

「ん……パキラ……も……いない」


そう。パキラさんがいない。なんでだ。


「それはこっちが聞きたいところですの。とにかくパキラとエイジスさんたちを探して、ラガロさん達と合流。こんなところで足止めされている場合じゃありませんわ」

「そういえば、跳んだとき誰か真下に居たような気がしたっス」

「パペットではないんですの?」

「……見間違え……」


それは僕のことだ。

咄嗟に隠れて、出るタイミングを逃している。

瓦礫の中から彼女たちを観察するようになってしまっていた。

どうしよう。いつ出よう。


「そうっスか? ガキっぽかったスけど」

「パペットではないんですの?」

「……見間違え……」

「そうっスかね。あっパキラっス」


パキラさん?

その視線の先に確かに……パキラさんがいた。


白いメッシュ入った腰まである薄緑色の髪。

髪の隙間から猫の耳が生え、片目を髪で隠し、大きな鍔広い帽子を被っている。


真っ白いローブを身に着け、青い上着に大きめの黒ベルトを巻く。

真ん中に大胆に青線入った白のロングスカートを履いていた。なんかオシャレだ。

先端に宝玉が嵌め込まれた木製の杖を持っている。


長短の二つの白い尻尾がゆらゆら揺れていた。

猫獣人の美少女パキラさん。


彼女を久しぶりに見た。元気そうだ。

手を振って駆け寄る。


その背後———巨大な黒い箱のミミックが地面の影から浮上するようにあらわれた。


「パキっ!」

「……っ!?」

「後ろっ、ス!?」


気付くと僕は瓦礫から飛び出していた。

3人は巨大な黒箱ミミックに驚き、僕が出て来て更に驚愕する。


だがそんなのはどうでもいい。

レリック【静者】を発動させ、パキラさんが喰われる寸前に飛び込む。


どうやってもタイミングと速度的に助けるのは無理だった。

それなら一緒に喰われて中で守って、コイツを倒す。


「ここは……」


ミミックの中は真っ暗闇だった。

更に右左はともかく上も下も何もない。


浮いているのは分かる。まるで水の中にいるみたいだ。

そして唯一あるのは、ハッキリしているのは。


パキラさんの身体の感触とぬくもりだけ。

彼女の尻尾が僕の脚と身体を巻く。


「う、ウォフ……?」


(ウォフ……ウォフ……)


「パキラさん……?」


なんだ……これは……感覚が……意識が…………しまった。


こいつは恐らくそのまんまミミック・ブラックボックスだな。

徐々に闇に取り込んでいくんだろう。

まずい。今の僕にはこれに対抗することが出来ない。


(……ウォ……フ……)


このままだとパキラさんが消える……?

ミネハさんも…………ダメだ。


「それだけはさせない!」


集中する。

レリック【静者】が僕を落ち着かせて最適解を導き出す。

そうか。こういう使い方もあるのか。

ならば迷いはない。


一瞬だけ僕はレリック【ジェネラス】を使った。

即座に【ファンタスマゴリア】を起動させる。


無数の【バニッシュ】が放たれてブラックボックスを貫いた。

闇が砕け散り、青い空が僕とパキラさんを照らす。



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