灰の花④・死の強者。
古今東西。
真の強者は相手の強さが瞬時に分かるという。
僕は別に真の強者じゃないが、それでも相手の強さは大体分かる。
この鎧騎士は強い。
それとこの鎧騎士は魔物だ。
人のカタチをした何かしらのアンデッドだ。
鎧騎士の魔物というとデュラハンだ。
だがこの鎧騎士は魔馬に乗っていない。
そもそも騎士なのだろうか。
見た目で黒い立派な鎧を着ているから、なんとなく騎士と思った。
その鎧姿は豪華絢爛でも豪奢もない。
それでもどこか高貴さと気高さを感じる。
だから騎士だ。
そう僕の中では騎士とする。
黒騎士だ。生暖かいそよ風が吹く。
血の匂いがする。
あの黒騎士から漂う。
僕は構えた。ナイフを片手に持ち、【バニッシュ】を利き手に出す。
動いたのは僕だった。
左と右に左と右に素早く四重のステップ。
翻弄するようにして一気に真正面で攻める。
斬りかかるナイフを黒騎士は剣で受けず避けた。
バニッシュも当たらない。
すかさず黒騎士の死角からナイフを向ける。
だがあっさりと回避される。
しかも殆ど動かず。数歩の足使いでかわされる。
「…………」
僕は下がった。
剣で易々と受けられた。そのほうが楽だ。
それをしないで回避したのは、触れたらダメだと理解している。
つまり一撃でも入れたら僕の勝ちだ。
それなら積極的に攻撃すればいい。
そうすれば例え掠り傷でもつくはずだ。
「……行くぞ。黒騎士!」
僕は構えて立ち向かっていく。
ダッシュ。翻弄で左右左左右右左の七重のステップ。斜めから切り掛かる!
あれからどれだけ経ったのか。
5分? 10分? ひょっとしたら1時間か。
「はぁはぁ……はぁはぁ……はぁはぁ……」
離れて息を切らす。
黒騎士を睨むように見上げた。
「……なん……なんなんだ……」
攻撃が当たらない。
いくらやってもどれだけやっても全く掠ることすらできない。
おかしい。
いくらなんでもおかしい。
最大で二十一重もステップして七つ方向からナイフを振り下ろした。
それでも、それでも掠ることすら出来なかった。
しかも黒騎士は最小限の動きしかしていない。
レリックかと疑ったがそうは感じられない。
例え使ったとしてもここまで回避できるレリックは万能すぎる。
どんなレリックにもメリットとデメリットがある。
回避している間は一切の攻撃ができないレリックかも知れない。
しかしレリックじゃないような気がする。
もしも。もしもだ。
もしも、この回避が純粋な技術だとしたら……戦慄する。
今の僕では絶対に勝て―――急に剣がスっと視界に入ってきた。
それが黒騎士の剣だと分かるのに少し時間が掛かった。
そして信じられないほど静かでゆっくりとした斬撃が、僕の腕を斬った。
「……?」
痛みは無い。
しかも斬られたと分かったのは、跳ねたナイフを持つ腕を見たからだ。
少年の腕。僕の腕だ。
ああ、もうダメだ。
予感はしていた。勝てないだろう。
それでも僕は出来る限り精一杯に頑張った。
掠り傷で倒せるなら今の僕にも届く。
そうほくそ笑んだ。
でも一切届かなかった。
チート武器を持っていても力量がそれに見合わない。
情けなく悔しいバカの話だ。
僕というバカが自惚れた結果だ。
今更に気付く。今更に思い知る。
僕は強いと、うぬぼれていた。
謙遜して隠しているつもりだった。
ああ、ああ……くやしい。くやしい。
つよくなりたい。黒騎士の剣が僕の首を刎ねる。
寸前、黒騎士は僕から離れた。
僕は黒騎士を一瞥すると、落ちている腕を拾う。
見事な切断面だ。今も痛みがなく血も出ていない。
血が出ないのは不思議だが、あるいはそれほどの域に達しているからか。
まあいい。
腕にエリクサーをかけて斬り口にくっ付けた。
嘘みたいに腕は繋がった。
黒騎士は剣を構えている。
その構えから壮絶な威圧を感じる。
普段の僕ならもうとっくに気絶しているだろう。
その構えに一寸の隙すら伺えない。
「あなたは強い」
正直に述べる。
ため息をつく。
「僕は弱い」
本当のことだ。
死ぬ寸前まで追い詰められ、まさに死ぬところだった。
死んでもおかしくない状況になったのは僕が弱いからだ。
そして殺されたくない。
死にたくないからこんなも無様な姿を晒している。
こんな惨めな恥晒しもいいところだ。
僕は第四のレリック【ジェネラス】を使った。
「……許せ」
紫の髪が風に流れ、紫の瞳で黒騎士をみつめて呟く。
そして第五のレリックを発動させた。
「【ファンタスマゴリア】」
無数の【バニッシュ】が出現する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます