13

「裕太の夢、私は応援してるよ。」

あの時、俺の気持ちを伝えていれば。

「助けて、裕太。」

あの時、もっと舞の手を強く握っていたら。

何回俺は後悔すれば気が済むのだろう。


俺は舞達が住んでいる街の隣の街に引っ越して数ヵ月が経った。

俺は今も変わらず、漫画を書き続けている。

あれから舞からの連絡もなく、毎日が過ぎている。

あの時に舞の手を離してしまった時の事を思い出す。

俺は舞の幸せの為に匠吾に舞を任せたはずだった。

俺の夢に舞の人生を犠牲にしてはいけないと思っていたから。


いや、でもそれは違う。建前だ。

俺はただ、怖かったんだ。

匠吾より劣っている自分が舞が匠吾を選ぶ事を怖れて、自分から引き下がった。

何を今さら舞を奪えると思っているんだ。

気分転換に散歩に出たはずが、色々考えてしまい、いつの間にか前に住んでいた場所に帰ってきてしまった。

「舞・・・・・・」

元気にやっているだろうか。

匠吾と話し合って、幸せになっているだろうか。

そんな事考える権利、俺にはないか。

息をつき、駅の方へ帰ろうと振り返り誰かにぶつかってしまった。

「すみません!」

「いや、こっちこそすみません・・・!」


「・・・・裕太?」

聞きなれた声に顔をあげるとそこには、驚いた顔をした舞が居た。

「舞ちゃん・・・!」

「ビックリした。引っ越したって聞いたから。」

「いや、散歩してたらいつの間にかここに来てもうたんや。」

「そう、なんだ。」

舞はそう言って悲しそうに俯いた。

「・・あれから、元気にやっとるか?」

「・・・うん、大丈夫だよ。」


俺の問いに肩をピクッとさせ、少ししてから舞は笑みを浮かべて答えた。

「そうか。なら、良かった。」

「うん。裕太も元気そうで良かった。」

「俺は元気やで。元気だけが取り柄やからな。」

「そんな事ないでしょ。」

そう言ってクスクス笑う舞に胸が温かくなる。

俺は舞が元気だったらええんや。

‘‘それでええんか。俺は、舞をちゃんと守れたらって後悔したんちゃうか?’’


「じゃあ、体に気をつけてね。」

「あ、ああ、舞ちゃんもな。」

そう言って舞は俺から離れていく。

いいのか。俺は、これで。

後悔しない選択をしてるのか。

自問自答していると、歩いている舞が急に視界から居なくなった。

「舞!」


ぐったりしている舞を俺は抱き抱えた。

「ごめんね、裕太。大丈夫だから。」

か細い声で舞が立ち上がろうとするも、足に力が入らなそうでまたその場にうずくまった。

「大丈夫かて、立ててへんやん。どこか悪いんか。」

「・・・」

言いずらそうに舞は下を向いている。

「舞ちゃん?」

「・・・・いるの。」

「え?」


「赤ちゃん、いるの。」

舞は涙を溢しながら絞り出す声で呟いた。







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