第25話 冒険者強襲
闘技場ができてからモンスターたちに活気ができた。
やっぱり、モンスターにも娯楽というものが必要なのだろう。
「えっほ! えっほ!」
モンスターたちは仕事終わりの自由時間に特訓している。
闘技場ができたことにより、強くなるモチベーションが上がったのだろう。
このままだとモンスターたちが俺よりも強くなってしまうのかもしれないな。
そうなったら俺の威厳は……
まあ、考えないようにしよう。なにもボスが最強でなければいけないということもない。
ゲームのダンジョンだってボスよりも道中のモンスターに苦戦するとかよくある話だしなあ。
俺も鍛えたところでレベルをあげてもステータスがほとんど伸びないことは実証されているのが悲しいところだ。
そうでなければ、俺も一緒に鍛えたのにな。自分の伸びしろがわかってしまうのはある意味で残酷なことだ。
努力しても無駄だってことがわかってしまう。
でも、だからと言って全てを投げだす理由にはならない。
俺は俺のできることをする。このダンジョンを発展させて、どうにか勇者と対抗できうるなにかを見つけなければ。
「イビルハム様。報告です。ダンジョンに誰かやってきたようです」
リトルハムが俺に報告してきた。この血相の変わりようはただごとじゃなさそうだ。
「ジートたちではないんだな……?」
俺に緊張が走る。まさか、勇者がついにこのダンジョンに攻めてくるのか。
「ええ。見張りによると見たこともない屈強な男なようで……どうしますか? イビルハム様。対処しますか?」
うーん。どうしよう。この人間が敵意があるかどうかはわからない。
俺がこの人間と話し合ってみるか。ただ、俺1人が丸腰で向かうのも危険だな。
「よし、そこのお前」
「え? 俺っすか?」
丁度、次の闘技大会に向けて特訓しているゴブリンを呼び出した。
「一緒に来てくれ。侵入者と戦いになるかもしれない。そうなったら暴れていいぞ」
「はい」
ゴブリンはキラキラとした目で返事をした。
闘技大会で発散できるとは言え、闘技大会はルールありの戦いである。
それに対して侵入者との戦いはルール無用の真剣勝負。こっちの方がモンスターにとっては魅力的だろうな。
「ずるいです! イビルハム様! 俺も連れて行ってください!」
「俺も俺も!」
血の気の多いモンスターたちが次々に名乗りをあげてくる。その数はかなり多くて、話し合いをするにしては多勢すぎる。
「待て待て。そんなにいたら統率が取れない。人数を絞っていくぞ」
というわけで精鋭のモンスター5人ほど集めて、俺はダンジョンの出入り口へと向かう。
モンスターたちが鼻息荒くうっほうっほ言いながら付いてくるのを確認しながら、進んでいくと侵入者の足音が聞こえてきた。
足音は複数あって、敵も1人ではなかった。これは5人で大丈夫なのだろうかと不安になってくる。
足音がどんどん近づいてくる。足音が大きくなるのに比例して、俺の心臓の音も大きくなっていくような気がした。
いやな冷や汗をかく。侵入者。一体何者なんだ。
「お、ついにモンスターが出てきたか!」
ついに人間と鉢合わせた。屈強な戦士が3人。鎧、兜を身にまとっていて防御を固めてある。
手にはむき出しの剣が握られていて、とても話し合いに来たとは思えないような風体だ。
ただ、俺にとって幸運だったのは、こいつは俺がプレイしていたゲームの主人公ではないということだ。
ということはただのモブキャラに過ぎない。俺たちでも十分勝てるかもしれない。
「へへ。こいつらを倒して名を上げてやるぜ」
なるほど。ダンジョン内のモンスターを倒して名を上げようとしている冒険者というところか。
ということは、こいつらは俺たちを倒そうとして来ている。話し合いの余地はなさそうだな。
でも、一応念のため対話は試みておくか。
「お前たち。俺たちのダンジョンに勝手に入ってきてなんの用だ?」
「へへ。この剣を見てのんきにお茶しに来たと思っているのか?」
冒険者たちが剣を持ってこっちに突っ込んでくる。これは宣戦布告と見て間違いないだろう。
「お前たち。こいつらをぶっ倒してしまえ」
「おおお! 待ってました!」
俺の指示を受けてモンスターたちは一斉に冒険者たちに襲い掛かる。
「へへ。ちょっと武装したゴブリンが俺様に敵うとでも……」
ゴブリンのこん棒が冒険者の顔面にクリーンヒットする。
「ぶぼへぇああ!」
冒険者は鼻血を垂れ流して思い切り吹き飛んだ。メキィと骨に響き渡る音が聞こえる。
結構痛そうだけど大丈夫だろうか。
「お、おい! リーダー!」
「食らえ!」
キラービートルが他の冒険者に突進をくらわせる。こちらも冒険者が吹っ飛んで壁に思い切り激突する。
ぶつかったダンジョンの壁の一部が崩れるほどの衝撃が発生する。
「ひ、ひい! ゆ、許してくれえ!」
残った冒険者が仲間を置いて逃げ出そうとする。しかし、血の気の多いモンスターたちはそれを追おうとする。
「待てやコラァ!」
「おい、そこまでだ。逃がしてやれ」
俺はモンスターを制止した。これ以上あの冒険者たち追い詰めても仕方がないだろう。
「い、いいんですか? イビルハム様」
「ああ。戦意喪失した相手を無理に追い詰めるようなことをしても意味がない。こいつらもダンジョンの外に放り出しておこう」
モンスターたちの一撃を加えられて完全に戦闘不能になっている冒険者たち。
思ったよりも弱かったな。いや、もしかしたら、このダンジョンのモンスターが存外に強くなりすぎているのかもしれない。
モンスターたちは久々の実戦かと思いきや敵が弱かったので消化不良と言った感じである。
気絶した2人をダンジョンの外に放り出したのを見届けて俺たちはいつもの日常に戻ろうか。
◇
それからしばらくした後にジートたちがダンジョンへとやってきた。
「なあ、イビルハム。ちょっといいか?」
ジートが神妙な面持ちで俺に話しかけてきた。
「ん? どうしたんだ? そんな深刻そうな顔をして」
「実はな。なんかここのダンジョンのモンスターが凶暴だって話が出ていてな。なんか騒ぎになっているらしい」
「へ? 騒ぎ? 俺たちが凶暴ってなんの冗談だよ」
俺たちからすると普通に平穏に暮らしているだけなのに凶暴とか言われるのはハッキリ言って心外である。
「冒険者がこのダンジョンに行ったら、ボコボコにされて帰ってきたって話が出回ってな」
「あー……たしかにそういう記憶はあるな。でも、相手の方から手を出してきたんだぞ。俺たちは正当防衛しただけだ」
俺たちには俺たちの言い分はあるけれど、世間では人間のあいつらの言うことを信じるだろうな。
なんか欠席裁判を開かれているようで気分が悪いな。
「そこは俺たちもわかっている。でも、世間一般ではモンスターは危険って認識だからな」
「まあ、仕方ないだろうな。ジートたちにも立場というものがある。俺たちの擁護をしたらモンスターの仲間だと思われるからな」
「イビルハムたちは良い奴なのになんかもどかしいな」
ジートは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「その気持ちだけで十分だ。まあ、あの程度のやつらならウチのモンスターでも十分に対処できる。心配しなくてもいいさ」
「うーん……そうかな。このダンジョンのモンスターが危険って話が出てな。近隣の村で生まれた勇者ってやつがやってくるって噂なんだ」
「え? ゆ、勇者だと!」
俺は一気に血の気が引いた。別にザコの冒険者が何人来ようとも関係ない。
しかし、勇者だけは話は別だ。あいつは強すぎる。主人公補正と言うべきものだろうか。とにかく俺たちに勝てるような相手ではない。
「どうしたんだ? イビルハム。顔色が悪いぞ」
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