第19話 モンスターの変異
リュウゼツを農場のリーダーに任命して数日が経過した。
「リトルハム。ちょっと良いか?」
「はい。なんでしょうか。イビルハム様」
「リュウゼツがリーダーとなってからの農場の作業効率はどうなっている?」
ここらで成果がどのように出ているのか確認しておきたかった。
まあ、まだリーダーになって数日しか経過していないから目に見えた成果を期待するのはやめよう。
もっと長い目で見てやらないとな。
「ええ。全体的な作業効率は良くなっていると思います。これまで1時間かかっていた作業が50分程度で終わるようになっているように感じます」
「マジかよ。かなりえぐい改善だな。それは……それで余った時間でなにをしているんだ?」
「次の日の仕事のための準備に当てているそうですよ。使用しているツールの手入れや農場の掃除に当てているそうです」
「おお、それは良いことだな」
ダンジョン内をキレイに保つのも必要なことだな。毎日、少しずつでもいいから掃除をしてくれるなら助かる。
「時間を有効活用できるようになるのは良いことだな」
「そうですね」
リュウゼツがリーダーになって良い面も出てきたか。このままだと安全に配慮しつつ、品質や生産が伸びていくのも時間の問題だな。
食料はなんぼあっても良い。いついかなる時、不作になるのかわからない。このままリュウゼツにリーダーを任せておくか。
「それじゃあ、俺もみんなががんばっている間にクラフト技術を上げるか」
余っている素材を使ってアイテムをクラフトし始める。
クラフトを繰り返せば繰り返すほどにクラフト技術が向上していく。
そうすればできることも増えて、このダンジョンで更に快適な暮らしを実現できるだろう。
鉱石を使ってゴブリン用の装備を作ってみる。頭用のヘルム、胴体のアーマー、足のレギンス、手のガントレットを作ってみる。
今のところこのダンジョンで戦闘は起きていないわけだけど、いつこのダンジョンが襲撃されるかもわからない。
その時に戦えるように防衛手段を用意しておくのは重要なことだろう。襲われてからでは遅いのである。
「ふう……防具ができた」
青銅製の全身フル装備。俺の加工技術がまだ未熟だから性能はそれほど高くないけれど、ないよりはマシ程度の防具にはなっただろう。
俺はクラフト部屋を出てからたまたま近場にいたゴブリンに話しかける。
「ちょっとそこの君。来てくれないか?」
「え? オイラですか?」
俺はゴブリンに話しかけて、クラフト部屋へと招いた。そこにある俺がクラフトした防具を指さす。
「この防具一式を装備してみて欲しい」
ゴブリン用のサイズに調整した防具。ゴブリンはそれを見て目を輝かせている。
「う、うひょおお! かっけえ! これ、本当にオイラが着てもいいんですか?」
「ああ。着心地とか感想を教えてくれ」
「はい!」
ゴブリンは早速防具を着用する。カチャカチャと音を立てて、ゴブリンの武装が完了した。
「おお! これならどんな攻撃でも防げそうな気がします」
「良かったな」
防具を装備できたからゴブリンは強化できそうだ。しかし、この程度の防具で勇者を倒せるとは思えない。
雑魚敵がちょっと硬くなって厄介になっただけだ。勇者がちょっとレベルを上げてくれば簡単に突破されてしまうだろう。
「有事の際はそれを着て戦闘に当たってくれ」
「はい。でも、最近は村の略奪をやっていないので戦闘経験が鈍ってる気がするんですよね」
「それは確かにそうだな」
ここのところモンスターにやらせていることと言えば農業と発掘作業だけ。そんなんでモンスターが強くなるかと言えば微妙なところだ。
こんな防具じゃ焼石に水かもしれない。でも、何もしないよりかは良いだろう。
「そうだな。仕事終わりに体力が残っているんだったら戦闘訓練もさせてみるか?」
「そうですね。最近は農作業も効率化できているし、時間はあるかもしれませんね」
ゴブリンたちの伸びしろがどこまであるのかは知らない。もしかしたら、鍛えたところでイビルハムよりも弱い可能性は全然ありえる。
「それじゃあ、俺はもう1度防具一式を作ってくる。それで防具を付けた物同士で模擬戦でもしておいてくれ」
「了解しました」
これでゴブリンたちも強化されるだろう。
最悪勇者に勝てなくても良い。勇者が俺のところに来るまでに体力を削ってくれさえすれば……俺が勝てる確率が上がるかもしれない。
まあ、そんなか細い勝利に賭けるしかないのがなんとも言えない。賭け事なら間違いなくベットしたくないところに張らなきゃ生き残れない状況だ。
俺はもう1度防具一式を作ってみた。これで戦えるゴブリン兵が2人になったぞ。まあ、だからなんだという話ではある。
劇的に強くなったわけではない。
なので、今後の俺のクラフト技術の向上で装備の性能が良くなったり、ゴブリンがレベルアップしてくれなきゃ意味がなさそうだ。
防具を作りまくったせいで素材となる鉱石が少なくなってきた。
これ以上防具をクラフトするのも資源の無駄なような気がしてきたので今日の所は早めに休憩するか。
ちょっと温泉に行って体をさっぱりさせて来よう。
◇
俺が温泉に向かうとそこには見たこともないモンスターがいた。
いや、既視感はある。どう見てもスライムのモンスターなんだけれど、なんかちょっと形質が違うような気がする。
「イビルハム様。なんだかボクの体が変になってませんか?」
「あ、ああ。なんかいつもよりプルプルやツヤツヤが凄いな。肌がテッカテカじゃないか」
明らかにプルプルが強化されているスライム。肌質が良くなっているのか?
「なんか温泉にずっと浸かっていたらこうなってしまいました」
「なんと……」
これは一体どういうことだろうか。俺もこのゲームをやり込んだけれど、こういう現象は初めて見る。
ゲーム中では発生しないイベント。そういうのもあるのか?
「スライム。ちょっと触っても良いか?」
「ええ。どうぞ」
俺はおそるおそるスライムの体に触れてみた。ぷるんぷるんぷるるるーん。なんかいつもよりほんのりと温かくて、弾力とぷにぷに感が強くなった気がする。
「これは……うーん。温泉に浸かっていることで体が変異したのか?」
スライムの体はほとんどが水分なわけで、温泉に浸狩り続けることでその成分を体に取り込んでしまったのだろう。
「えー。それじゃあ、ボクはどうすればいいんですか?」
「特に体調に変化がなければ今まで通りに過ごせばいいんじゃないのか?」
「むー……」
「まあ、温泉が体に悪いってことはないだろうし、大丈夫だろ」
多分。
「イビルハム様がそう言うなら信じますけど……」
こんな時にステータスオープン! みたいなことができれば良いんだろうけど、あいにくと俺にはそんな能力はない。
ゲームのようにステータス画面を開けないから、このスライムがどうなったのかは全くわからない。
でも、温泉に浸かり続けることでスライムが変化するか。中々に面白い要素ではあるな。
浸かる液体によってスライムの形質が変化するなら、毒液に浸からせることによって、毒の性質を持つスライムが生まれるのだろうか。
なんか色々と実験したくなってきたな。
いや、でも、ダンジョンの仲間をそういう実験対象に見るのは良くないのかもしれない。
「まあ、そうだな。とりあえず他のスライムと区別するために、こういう状態になったスライムのことをこれから温泉スライムと呼ぶか」
「温泉スライム……なるほど。なんか上位種になった気分です」
「それは良かった。気分だけでも良くなってくれ」
気の持ちようは大事だからな。何事もポジティブに考える方が良い。
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