第17話 組織の体系化
俺はリトルハムと一緒に温泉に入っていた。
「はぁ~。良い湯だな~」
日頃の疲れが吹き飛ぶような温泉の効能。事実、ゲームの中の話で言えばこの温泉に入れば疲労ゲージが回復する。
「本当ですね。ずっとこうして湯につかっていたいです」
リトルハムもこの温泉が気に入っているようである。というか、このダンジョンのモンスターはみんなこの温泉に執心しているようである。
作業を終えた他のモンスターたちも温泉に入ってくる。
「俺たちはそろそろ出ようか」
「そうですね」
ここの温泉も決して広いわけではない。だから、こうして順番で譲り合って温泉に入るしかない。
今のところはそれで揉め事は起きているわけではない。
だから温泉の拡張の必要性は感じてはいないけれど、もっとダンジョンの規模が大きくなったら温泉も拡張しないとな。
今のところこのダンジョンにいるのは性別があるのかどうか怪しいやつらと男しかいない。
もし、女や女型モンスターがこのダンジョンにやってくるとしたら流石に湯をわけないわけにはいかないからな。
温泉から出た俺は失った水分を取り戻すために、ダンジョンにある泉の水を飲んでから寝室へと向かった。
そこで横になり、眠ろうとする。眠るまでの間に少しこれからのことを考えてみることにする。
俺たちは今順調に生活ができている。生活の基盤も整ってきたし、徐々にダンジョンも拡張して生活が豊かになっている。
実に平和そのものであるが、俺たちに脅威がないというわけではない。
それは主人公である勇者の存在である。
勇者は強い。俺では絶対に勝てないくらいに。
俺自身の強さにはもう伸びしろがない。これ以上強くなることができないのだ。
だから俺が強くなって撃退するという方法は取ることができない。
勇者を撃退する方法をそろそろ考えなければまずい気がする。
方法としては俺よりも強い部下を作って勇者を倒してもらうというのが手っ取り早いけど……
その俺よりも強いモンスターを生み出すのも一苦労である。
それに俺よりも強いモンスターがおとなしく俺の指示に従うだろうか。
謀反を起こされる可能性だって十分に考えられる。
勇者を撃退できるかもしれないけど、俺が撃退されたら意味がない。
うーん……どうしたものか。いずれやってくる勇者さえいなければこの暮らしも悪くないんだけどな。
勇者を撃退するためには何をすればいいのかがわからない。真正面切って戦うのは流石に無理があるよな。
だとすれば罠を張ってどうにかするのが良いのか?
罠を作るためなら色々な素材を作らないとな。それこそ、木材とか鉱石とか色々と欲しいところではある。
ただ、そういう罠を作る素材を効率良く確保するにもDPが必要になるわけで……植林場を作ったばかりの俺にはDPが圧倒的に足りていない。
こうしたDPのやりくりには頭を悩まされ続けている。でも、それを考えるのが楽しい一面もあるけれど……今のところ命がけだしなあ。
あー……本当に勇者来ないでほしい。そうすれば、全てが丸く収まるのに。
そんなことを考えていくと眠気に囚われて俺の意識は段々と弱まっていった。
翌日、目を覚ます。DPが各段に増えているというわけもなく、いつも通りの生活をせざるを得ない。
植林場を見てもそんなすぐに植えた苗が成長するはずもなかった。やっぱり、ここは時間経過を待つしかないか。
植林場の見回りも終わったし、農業や鉱石掘りは他のモンスターがやってくれているから、俺は釣りをして時間を消費するか。
何もしないよりかは釣りをして気を紛らわせていた方が良い。
今のところ、必要なツールとかもないしクラフトに明け暮れる必要もない。
釣り糸を垂らして、俺は魚を釣れるのをひたすらに待ち続ける。
釣れる魚ももう少し種類を増やしたいし、良い質のものも揃えたい。大物を釣り上げられるようになれば食生活はもっと豊かになるんだけどな。
でも、今はとにかくDPを生き残るために使おう。
いつかはやってくる勇者。それを凌げさえすれば俺の生活を脅かすものはいなくなる。
釣り堀の拡張とかはその後で良いか。
俺の釣竿に魚がかかる。俺は魚を釣り上げてそれを保管する。
モンスターに魚を食わせて満足させればDPも向上する。結局のところ、DPとはダンジョンで快適に暮らしていれば必然的に溜まるようなものなのである。
うまい食事、適度な休憩、質の良い睡眠。それらを確保することが俺の義務であり、目的なのである。
次にDP溜まったら何をしようか。採掘場の拡張。もしくは人手を増やすためにモンスターを増やしてみても良いかもしれないな。
結局のところ、労働も戦いも数なのである。食料さえ確保できているのであれば、モンスターの最大数を拡充するのも全然悪くない選択である。
そうだな。やっぱり、モンスターの最大数を増やす方が良いか。今のところ、各施設を最大限に有効活用できているような気がしない。
農場も結構増やしたし、採掘場や植林場もまだまだ人手が足りているとは言えない状況である。
モンスターが増えれば賑やかにはなるけれど、統率を取るのが難しくなるな。やはり、俺1人で全てのモンスターを指揮するのは難しい。
となるとやはり、組織を体系化する必要があるか。それぞれの部署に分けて、リーダーを決める。そのリーダーの判断によって、部署を動かしていく。
俺はそのリーダーとやり取りをするだけで良い。うん。まあ、悪くない方向だな。
リトルハムは俺の補佐として動かす必要がある。となると、リトルハムとは別に農業担当、採掘担当、植林担当、等々のリーダーをそれぞれ決める必要があるか。
まずはそうだな。農業担当から決めるか。
俺は釣りをやめて、リトルハムのところへと向かった。
「リトルハム。ちょっと良いか?」
「はい、なんでしょう。イビルハム様」
「農作物の収穫データを見てみたい、ちょっと見せてくれ」
「はい。こちらの本に記しております」
ジートたちからもらった白紙の本。それを俺たちは記録に使っている。
今のところこのダンジョンでは本とかいうものを作るほどの技術はないので、こうして交易できているのは非常にありがたい。
「えーと……」
農業のデータを見ている。やはり最初期に比べると、段々と収穫量が上がってきている。
みんな農作業のノウハウというものがわかってきている証左であろう。
何事も鍛えれば伸びていくものである。しかし、俺の戦闘能力はスタッフのいたずらによって伸びなくされてしまったけれども。
このデータを見てみると全体的に収穫量の伸びは良くなっている傾向にあるけれど、特に凄まじいのは人食い花が担当しているエリアである。
人食い花は植物系のモンスターである。だからこそ、作物を育てるのに有利なのだろうか。
植物のことは植物が1番良く分かっている。ということか? まあ、ただの偶然かもしれないけれど、とにかくリーダーを決めるとしたら能力が高い者の方が良い。
「リトルハム。今日の仕事終わりに人食い花を集めることはできるか?」
「はい。できますよ」
「わかった。それじゃあ、人食い花をここに集めてくれ。大切な会議があると」
「会議ですか……下っ端のモンスターを会議に入れるなんて珍しいですね」
いつもは会議と言っても俺とリトルハムの2人で物事を決めることの方が多い。というかそのパターンしかない。
「これからは、ちゃんと各々のモンスターたちにもしっかりとしてもらわないとな」
正直、下っ端のモンスターに頭脳労働ができるかどうかは怪しいところではある。ましては、モンスターたちの管理を任せても良いものだろうか。
でも、なにごともやってみないことには始まらないのだ。
俺は人食い花の素質を信じる。
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