第13話 ボーナス支給
「イビルハム様。食糧庫の前でなにをしているのですか?」
「へあ!?」
俺の背後からリトルハムの声が聞こえる。俺はゆっくりと振り返ると、怪訝そうな表情をしているリトルハムがいた。
「リトルハム……お前こそどうしてここに」
「なんか虚ろな目で食糧庫に入っていくイビルハム様の姿が見えたので声をかけたのですが……いけなかったのですか?」
いけないと言われても……リトルハムの行動には正当性しかない。
しかし、俺は腹を空かせてみんなの食料をつまみ食いをしようとしている。食料を管理するという立場でありながら……
「えっとだな……リトルハム。お前、ボーナスって知っているか?」
「ボーナスですか?」
こうなったらもうごまかすしかない。
「ああ。普段の支給とは別にがんばっているみんなに特別に支給される報酬だ。みんなががんばっているお陰で食料も潤沢にあるし、これを上乗せして配給しようと思ってな」
この世界にボーナスの概念のあるのかはしらない。でも、こうやってごまかすしかない。
そうだ。俺だけが盗み食いをしようとするからいけないんだ。こうなったら全員を巻き込んでやる。福利厚生と言う名の強制イベントでな。
「ボーナス。ということはいつもより多く食べられるってことですか!」
「ああ。そうだ。今後の食料の備蓄と相談しながら、パーティを開こうと思ってな」
「なるほど! 流石イビルハム様です!」
なんとかごまかせたか。とはいえ、俺1人でちょっとつまみ食いしかけただけで、まさか全員に食わせることになるとは思わなかった。
食料の備蓄は足りるのだろうか。それはちょっと疑問ではあるけれど……
まあ、なんとかなるだろう。この際、盛大にやろうじゃないか。ジートたちも巻き込んで楽しいパーティにしようじゃないか。
そんなわけで、俺はモンスターたちを集めた。集めたモンスターに俺が直々に伝えよう。
「いいか。みんなよく聞いてくれ。これから、収穫祭でもないのにパーティを開こうと思う」
「え? どういうことですか? イビルハム様」
早速モンスターから疑問の声が出る。そりゃそうだ。普段はこういうことはあまりしないからな。
「今日は日頃がんばっているみんなのために、備蓄してある食料を解放する」
「え? ってことはみんな好きなだけパンを食えるってことですか?」
「ああ、食ってよし!」
「やったー!」
モンスターたちは喜んでいる。
「俺たちもいいのか?」
「ああ、ジートたちもここで働いてくれている。だから食ってくれ」
「ありがとう」
こうして、俺たちは食料の備蓄を気にすることなくパンを食べることにした。これも福利厚生。ボーナスの一環だ。
「うめえ! うめえ! 収穫祭でもないのにこんなに食えるなんて」
「たまにはいつも以上に食ってもいいよな?」
「今日は腹いっぱいになるまで食うぞ!」
普段はモンスターに腹八分目までしか食わせてない。満腹すぎると作業効率も落ちてしまうし。
でも、今はそんなこと考えない。俺が腹減ってんだ。だから食いまくるぞ。
俺はパンに焼いたジャガイモを入れてかじりつく。
うまい! 香ばしくなったポテトの味が絶妙だ。
こうなったら今までの分がっつりと食ってやる! おら、ブルーベリーをつかみ取りだ。
「おお! イビルハム様がブルーベリーを豪快に食べてらっしゃる」
「なんという男らしい食べ方。俺たちも真似しようぜ」
モンスターたちは備蓄してい有るブルーベリーを大量につかんで食べ始める。
そこに行儀など一切ない。今は無礼講。礼儀作法などを問うのは無粋だ。
ブルーベリーを複数個一気に頬張ることの贅沢よ。
「なんだか愉快になってきたな。はっはっは」
酒を飲んですらいないのになんだか陽気な気分になってきた。今日はもうとことん楽しむぞ!
◇
次の日。俺は食料の備蓄を確認してため息をついた。
食料の備蓄が半分に減っている。なんとか次の収穫まで食いつなげるだけの量はあるものの、結構カツカツである。
やってしまった……これではモンスターの上限数を増やすことができない。もし、モンスターを増やしてしまえば、食料が足りなくて飢餓が起きてしまう。
そうすれば、得られるDPも減って発展も遅れるという悪循環に陥ってしまう。
まあ、でも昨日のパーティのお陰で地味にDPは増えている。本当に地味だけど。
モンスターたちが満足してくれたおかげでDPが増えるのは不幸中の幸いであった。全くの無駄遣いというわけでもない。
いや、DP効率考えたら無駄には近いか。
でも、お陰で新たに植林場を作るだけの余裕は生まれた。まあ、植林に人員を割くと農地の作業が遅れるというジレンマは抱えているけど。
植林活動をするためにはモンスターを増やしたい。でも、モンスターを増やすと今度は食料が足りなくなる。
木材用の樹を植えたところで食料に直結しないしな。ここは本当に困るところだ。
今、植林しなければ、植林場を作る必要もないんだよな。植林するだけの労力を割けないのなら、労力を割かずに利益が得られる施設を作る方が効率が良いか?
また食料の備蓄が増えてきたところにモンスターの上限を上げる方がいいか。食料がまた溜まるころには植林できるようになるだろう。
というわけで、優先しようと思っていた植林は後回しにすることになった。
いずれは早めにやらないといけない重要なことではあるが、緊急ということでもないしな。
それよりも重要なものを作ろうか。少ない人数でも回せるような施設がいいな。できれば食料を手軽に手に入る施設……
お、あった!
【釣り堀を設置しますか?】
この釣り堀があれば、魚を釣ることができる。農作物と違って魚はすぐに食料として使えるか?
「よし、釣り堀を作ろう」
こうして俺はダンジョンを拡張しつつ釣り堀を作った。
【釣り堀を設置した影響で水棲モンスターが出現するようになりました】
お、おお? これは全く計算に入れてなかった。と言っても水棲モンスターのほとんどは上限数0だから今のところ沸く予定はない。
水棲モンスターをわかせるにはDPを使って数値をいじらなければならない。
まあいいや。今は水棲モンスターを増やしても仕方ないしな。そんなことより、魚だ! 魚!
木材から作った棒に、糸をクラフトすれば釣りができるようになる……
あれ? 糸なくね? このダンジョンでどうやって糸を調達すればいいんだ?
困ったな。虫から糸が取れることもあるけど、キラービートルは糸を吐くようなタイプじゃないしな。
ということは、糸はジートに持ってきてもらうしかないか。ダンジョン内の文明で足りないものは人間の力を借りよう。
◇
「というわけなんだ。ジート。釣竿を作るために糸が必要で……」
「なるほど。わかった。今度、来るときに釣りに使えそうな糸を持ってくる。まあ、俺もパーティの時に結構食ってしまったからな、。タダでいいぞ」
「ありがとう。助かる」
物々交換をしようかと思ったけど、ジートはいいやつだ。今回はタダでいいらしい。先に食わせておいて良かったな。
今すぐに釣りができないのはなんとももどかしいけれど、ジートが次に来るタイミングの時に釣りができるようになる。
釣りはいいぞ。色々な魚を手に入れることができる。
魚は栄養豊富である。タンパク質も取れるし、DHAで頭が良くなる……と言われている。実際のところはどうかは知らない。
それに、魚の種類によっては油も取れるかもしれない。魚の油は健康に良いと言うし。
今は無理だけど、その内アクアリウムとかもクラフトできるようになる。そうしたら、魚を飼うことだってできる。
やれることの幅がどんどん広がりそうな予感だ。
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