第12話 植林場の視察

 このダンジョンにはキラービートルという昆虫種のモンスターがいる。


 やつらは樹の樹液が大好物であり、こいつらがいるダンジョンには樹が生えていることが多い。


 このダンジョンも例に漏れずにキラービートルのための樹が設置されている。


 今まで樹が欲しければキラービートルの棲家である樹を少し拝借していたけれど、これから先はツールを作るとなると大規模な植林場が必要になるかもしれない。


 とりあえず、キラービートルの樹が現在どれくらい残っているのか確認してみよう。


 俺はキラービートルの棲家へと向かった。そこにはキラービートルたちが樹にぶら下がって樹液をじゅるじゅると吸っている光景が見られた。


「あ、イビルハム様。おはようございます。こんな時間帯に何か用ですか?」


「うーんと……用ってほどのことでもないけど、そろそろ樹を植えた方がいいのかなと思ってな」


 キラービートルの棲家に樹はそれなりにあった。しばらくはこの樹だけでキラービートルは生活できることであろう。


 しかし、これから先クラフトをメインにしてくためには木材はかかせない素材である。無計画にここの樹を切ってしまってはキラービートルの棲家がなくなってしまう。


「樹ならまだまだありますから、好きなだけ切っていいですよ」


「いやいや、今は大丈夫かもしれないけどな。樹は植えてから成長するまで時間がかかるんだよ」


「どれくらいですか?」


「ブルーベリーあるだろ? あれは樹の中でも成長が早い方だ。木材として適している樹は成長が遅くてその数倍はかかる」


 俺の解説にキラービートルは度肝を抜かれた顔をしている。


「あ、あのブルーベリーより成長が遅いものがあったんですか!?」


 自分たちの見積もりの甘さに顔面蒼白と言った感じである。植林をせずに無計画に樹を切ってばかりいると自分たちの棲家がなくなってしまうことにようやく気付いたのだ。


「そ、そんな。イビルハム様。木材は必要な素材ですよね? だから樹は切る必要がある。それじゃあ、俺たちはどうすればいいんですか!」


「落ち着け。だから、俺がこれから植林をしてお前たちの棲家を極力減らさないようにしていこうと考えているんだ」


 恐らく今のうちから植林しておかないと手遅れになりそうな気配がする。ギリギリのところで気づいたという感じか。


 木材用の樹を1本植えるのに必要なDPは35。それをここに植えてみるか。それともこことは別に植林専門の土地を作るか?


 キラービートルが樹液を吸うと木材としての質が低下する傾向にある。これから先は質の高い木材が必要になるかもしれない。将来のことを見越したら、植林場施設を作るのは必須になるであろう。


 中々に悩ましい問題ではある。とりあえず、現状で余っているDPを使ってある程度ここに樹を植えておこうか。


 木を伐採しすぎるとモンスターの生態系に影響が出てしまう。これも現実の環境問題と似ているようなところだろうか。


 きちんと適正に森林を管理しなくてはならない。それがこのダンジョンの生態系を守ることにも繋がるのである。



 無事にキラービートルの居住区に植林をした俺。新たに植林場を作るにはDPが足りていない。またダンジョンを拡張する必要がある。


 ダンジョンの拡張にはDPを大量に使うからこれからは節制しないとな。


「イビルハム様。大変です」


「おお、どうしたリトルハム」


 リトルハムは俺の補佐をしてもらっている。特にモンスターの要望とかを聞いて、まとめてもらっている。いわば中間管理職的な立ち位置である。


「農具がいくつか壊れ始めました。このままでは農作業の効率が落ちてしまいます」


「そうか。では、新しい農具を支給しよう」


「え? もう農具ができているのですか?」


 リトルハムは口をあんぐりと開けて驚いている。すでにできていることは予想していなかったのだろう。


「ああ。こんなこともあろうかと事前に農具はストックしてある」


「おお! さすがイビルハム様! ぬかりがないですね!」


 リトルハムに褒められて俺は悪い気がしなかった。


「それにしても、イビルハム様のおかげでこのダンジョンも発展してきましたね」


「いや、俺だけの力じゃない。みんなが一生懸命働いてくれているからこそ、このダンジョンは発展しているんだ」


 少し前までは食料も自分たちで作ることもできなかったモンスターたち。


 他人から奪うことでしか生きられなかったけれど、こうして自力で食料を作る方法を与えるとみんなイキイキとして実に楽しい生活を送れている。


「まあ、そんなことより農具の話だったな。必要分を言ってくれ。渡すから」


「はい、えーと……クワが5本。カマが3本壊れました」


「そんなに壊れたのか」


「あ、すみません」


 リトルハムがなぜか謝る。ちょっと言い方が悪かったかな。


「いや、すまない。別に責めているわけじゃないんだ。むしろ、道具が壊れるのは真面目に作業をしている証拠だ。形あるものはいつか壊れるからな」


 どんなにものを大切にしていても使用していればいつかは壊れてしまうのだ。


 農具たちもある意味壊れるまで使われて幸せだったとは思う。


「ありがとうございます。イビルハム様。その言葉。みんなにも伝えてきます」


「いやいや、恥ずかしいからやめろって」


「いえいえ、そういうわけにはいきません。イビルハム様に真面目にやっていると褒められたら、みんな喜びますから」


 リトルハムはそこを譲る気はないようである。


「まあ、みんなが喜んでくれるならいいか」


 部下のモチベが上がるんだったら、俺はいくらでも褒めてやるつもりでいる。仕事をする上でモチベは重要だからな。


 適正な報酬。上司からの評価。それがきちんとあればモチベは上がるだろう。


 俺はイビルハムにクワとカマを必要分渡した。そして、在庫管理のために取り出した農具の個数はきちんと記載する。


 在庫管理は大切である。在庫も資産の一部。今どれくらいの資産があるのかを把握しておかないと組織はうまく回らないからな。


 さて、農具が減った分、また新たに補充しておかないとな。農具を作るにも木材は使うわけである。


 でも、今は木材を手に入れるのも厳しい状況である。これ以上キラービートルの棲家を破壊するわけにもいかない。


 となると、やはり植林を早い段階でやって木材不足を解消しないとな。


 しかし、DPが足りていない。これも地道に稼ぐしかないのであるが……最初期と比べてモンスターも増えたし、生活レベルの向上した。人間だってたまに来てくれるから、DPの上昇効率自体は上がっている。


 焦ることはない。みんなが幸福に暮らしていけばDPは溜まる。そのために俺もがんばらないとな。


 それにしても腹が減ってきたな。俺も結構食う方であるから、いくら食っても食い足りないというのは本音である。


 正直、胃袋が無限に広がるんじゃないかと思うくらいには俺は食うことができる。でも、俺もある程度は食うのをガマンしないといけない。


 あまり食べすぎても体に良くないし、食料を無駄に消費してしまう。摂生は基本だ。


 しかし、俺の腹の虫がぐぅ~と鳴る。くそ、腹が減ってきた。いつもの配給分じゃ足りなくなってきたぞ。


 最近ずっと働いているからその分、体がエネルギーを欲しているのか?


 俺の取り分もきちんと計算してある。でも、食料を管理しているのも俺だ。


 俺がちょっと配給前の食料をつまみ食いしたところで誰にもバレはしない。しかし、決められたルールを俺が守らないのは横領になってしまうのだろうか。


 それはちょっと困るな。しかし、腹が減りすぎて動けないレベルになってきた。集中力も続かない。


 ちょっとくらい間食してもいいか……?

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