第11話 新しい産業

 温泉施設ができたことにより、モンスターたちが休養することで体力回復の効率が良くなった。


 それにより、時間当たりのDPも増えてきた。モンスターが休息することで単純にDPが増えるし、適度な休憩を挟むことで仕事の効率も良くなった。


 ただ、そろそろ食べ物以外のなにかを生産できるようにしたい。ジートたちに渡す分も含めて食料の確保は十分できている。


 万一の時のための備蓄もできているし、いきなり食糧危機という状況にはならなさそうだ。


 新しい生産といえば採掘場。そこはダンジョンの初期から存在している場所ではあるがあまり有効活用できていない。


 ゴブリンあたりに掘らせてもいいかもしれないな。でも、今は人員が足りていない状況。モンスターの上限数をDP使って増やすしかないか。


【モンスターの上限数を増やすには2000DPが必要です】


 俺は迷わずに2000DPを使った。それにより、ゴブリンの上限数が増えた。しばらくすれば、ゴブリンが沸いてきて上限数まで増えてくれることだろう。


 ゴブリンが増えてきたら、増えた分のゴブリンに指令を与えないといけない。じゃないとこいつらは働いてくれないからな。


 というわけで、ゴブリンが増えるまでは今まで通りの生活を続けていくことにしよう。


「ふう……温泉あがりのブルーベリージュースはうめえな!」


 モンスターたちが温泉あがりにブルーベリージュースを飲んでいる。その在庫量をちょっと確認してみようか。結構少なくなってきているな。新しいジュースをクラフトして、補充しておくか。


 俺はクラフト部屋に向かい、そこで備蓄してあるブルーベリーとダンジョン内にある泉から取れた水と砂糖をクラフト。ブルーベリージュースを作ることに成功した。


【クラフトレベルが上昇しました。これにより新たなクラフトが解放されます】


 そんな言葉が俺の頭の中に流れてきた。レベルが上がることでできることが増えてくる。と言っても今は素材不足で新たなクラフトが解放された感じが全然しない。


 でも、クラフトレベルは確実に上げておいた方が良い。今ある素材でもクラフトレベルが足りないせいでクラフト条件を満たせてないものがある。


 例えばサトウキビによるバイオマス燃料。これも将来クラフトレベルが上がることを見越していたから、サトウキビの生産を始めたのである。


 ただ。これから採掘作業をする上でクラフトレベルの上昇はかなりおいしい。このタイミングで上がってくれたのは良かったとすら思える。


 採掘場から取れる資材をクラフトするなら、クラフトレベルはなんぼあってもいいからな。


 鉄鉱石も色々なアイテムにクラフトできるけれど、クラフトレベルが足りなければ作れないアイテムも多々ある。



「イビルハム様! 俺たちはなにをすればいいのですか!?」


 新たに増えたゴブリンたちが俺のところに仕事を求めてやってきた。こちらから仕事を振る前にやってきてくれたのはやる気が感じられて嬉しい。


「そうだな。お前たちには採掘作業をしてもらおうか」


「採掘作業ですか。あそこにある採掘場で作業しろってことですね」


「ああ。そうだ。道具はこちらで用意してある」


 俺は人数分のツルハシをゴブリンに渡した。ようやく仕事ができるとゴブリンはツルハシを嬉しそうに受け取り、採掘場へと向かった。


 一応、初めての作業ということで俺もゴブリンたちの採掘作業を見守るとするか。


 採掘場につくとゴブリンたちは色々なものを採掘し始める。


「えっほ! えっほ!」


「ほいさ! ほいさ!」


 ゴブリンたちは岩をツルハシで削って素材を回収しようとしてくれている。


 岩も資材として使えるが、やはり鉄鉱石や銅鉱石、銀鉱石や金鉱石と言ったものが本命である。


「とりあえず休憩時間になったら、パンを配給する。それまでがんばって作業をしててくれ」


「はい!」


 ゴブリンたちはパンに釣られたのか作業効率が上がった。やはりこのダンジョンでの1番の娯楽は食だろう。というか、それ以外に娯楽があるのだろうか。


 俺はなんだかんだでこのゲーム世界に転生できてそれなりに楽しめている。


 リアルなゲーム体験。それはゲーマーなら誰しもが1度は憧れるところであろう。


 だが、現代日本で味わえる漫画、映画、カラオケ、ボウリングと言った娯楽がここにはないのが少し辛いな。


 それに、俺の命もいつまであるかわからない。勇者がいつ襲撃にやってくるかも……


 勇者と戦ったら俺は確実に負けるだろう。しかし、それまでの間なにもしないのも良くない。どうせ死ぬとわかっていても行動するのが人間だ。


 いつか死ぬと言ったら人間は全員そうだ。だから、どうせ無駄になるから何もしないというのも怠惰である。


 それに行動することによって、天寿を全うする前の死の運命を回避することもできるかもしれない。


 まあ、勇者と戦って勝てないことはわかりきっているので、モンスターを増やして最低限の抵抗はしてみるしかないけれど。


 はあ、いっそのこと勇者は俺のことを見逃してくれないかな。俺だってもう改心して悪いモンスターじゃなくなったんだぞ。


 近隣の村を襲撃してないし、逆に村人と協力して産業を発展させている。俺を殺すメリットなんて勇者にはないだろう。


 いや、あるか? 俺を殺せば勇者にダンジョンの権限が移る。そうすれば、このダンジョンに備蓄してある素材は勇者のものになる……


 メリットはあるな! 十分すぎるくらいに。でも、勇者だろ? 世界を救う存在だろ? そんなことするか……?


 するよな! 勇者なんて世界を救うためなら民家のタンスをあさったり、壺を割ったりするような連中だぞ。


 モンスターが今まで一生懸命育てた産業を奪うとか余裕でやってくるだろ。


「ゴブリン! 採掘をがんばってくれ。俺はお前たちに期待をしている」


「え? 俺たちに期待ですか?」


「お前たちが採掘してくれなきゃ俺は成り立たないレベルだ」


「そんなにですか!?」


 採掘によって鉱石を確保すれば武器と防具をクラフトできるようになる。ステータスは伸びないにせよ、武具で身を固めれば勇者を倒せるかもしれない。


 最低限、防衛できるくらいの戦力は確保しておかないと死ぬ。


 だから、この採掘場での産業は俺の想像の数倍も重要なものだった。


「わかりました! イビルハム様に期待されたらがんばらないわけにはいかないですね!」


 ゴブリンのやる気が上がったのか動きが目に見えてよくなった。


 やはり、期待して褒めて伸ばすのは重要だな。このダンジョンで生まれるモンスターたちはダンジョンマスターである俺の言うことはしっかりと聞いてくれる。


 さて、あんまりモンスターを監視しすぎてもあれだな。できればみんなにはのびのびと作業をして欲しいから俺は一旦今ある素材を回収してから退散するようにしよう。


「それじゃあ、後は頼んだぞ。このダンジョンの未来はお前たちにかかっている!」


「はい!」


 大量の削られた石を抱えて俺はこの石を使って色々とクラフトしてみることにした。


 まずはかまどを増やしてみよう。トーストを作るのにも、かまど1台では足りないと思っていたところだ。かまどを増やして効率的にトーストを焼けるようにしておこう。


 次にツールだな。ツルハシもストックしておいて、斧とかクワとかカマとか。その辺のものも作っておかないと、今ある工具が壊れた時に対応できない。


 農作業しているモンスターたちもずっと同じ農具を使い続けてもらっているからな。そろそろ摩耗して農具に交換する時期かもしれない。


 そう考えるとこのタイミングで採掘を始めるのはベストなタイミングだったかもしれない。事前に備えることができるからな。


 そんなわけで俺はこの日は1日中クラフトするハメになってしまった。

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