第6話 このままでは幼馴染が奪われてしまう

 高校一年生の正月明けのある日。


 俺が懸念していたことがついに現実のものになった。


「わたし、今日、また告白されちゃった」


 そこまではいつもの言葉だったのだが……。


「なかなかのイケメンでやさしそうだった。その場では、『少し考えさせてください』と言ったのだけれど、わたし、付き合ってもいいと思ったの」


 思わぬ弥居子ちゃんの言葉。


 今までは、異性に対して奥手で、すべての告白を断ってきた弥居子ちゃんが、告白に対して前向きになっている。


 相手は、縦屋位吹(たてやいぶき)先輩。


 今回の沼糸土先輩もこの学校のイケメンとして有名だが、この縦屋先輩も沼糸土先輩とこの学校で一二を争うほどのイケメンだ。


 俺は愕然とした。


 このままでは縦屋先輩に弥居子ちゃんを奪われてしまう!


 幼馴染の俺こそが、弥居子ちゃんの恋人にふさわしい男だ!


 こうなったら、恥ずかしいなどと言っている場合ではなく、決断をしなければならない!


 俺は弥居子ちゃんに告白することを決断した。


 とはいうものの、ではいつ告白するかということになってくる。


 朝、一緒に登校している時に、いきなり、


「弥居子ちゃん、俺、幼い頃からずっと好きだったんだ!」


 と言うべきなのか?


 それとも、夕方、同じ下校時間になった時にその言葉を言うべきなのか?


 あるいは、平日の放課後や休日において、一緒に遊んでいる時に、その言葉を言うべきなのだろうか?


 どの日に、そして、どこで告白するのがいいのか?


 そこのところでまず悩む。


 悩みはそれだけではない。


 告白することを決断した後から、弥居子ちゃんがそばにいると胸のドキドキが大きくなり、苦しい思いをすることが多くなってきた。


 弥居子ちゃんは、高校生になって、より美しくなったということもあるのだが、俺をより一層苦しめることになったのは、弥居子ちゃんから漂ってくるいい匂いだ。


 おしゃれにより一層力を入れるようになったことの一環だと思う。


 異性が苦手な弥居子ちゃん。


 でも自分磨きをきちんと行っているのだ。


 ああ、いい匂い。


 このことで心が苦しくなるということを、昔の俺が想像するのは困難だと思う。


 もちろん苦しいといっても、


「心地のいい苦しさ」


 ではあるのだが……。


 とにかく胸のドキドキが大きくなると、恥ずかしさの方も大きくなり、告白どころではなくなってしまう。


 こんな調子では、告白する時と場所を決めることはできても、告白自体することができない。


 また、告白したとしても、断られたらそれで終わりだ。


 今の時点で、弥居子ちゃんは俺に恋する気持ちがあるとは思えなかった。


 ということは、告白をすれば、九十九パーセントは失敗するだろう。


 そうすればもう幼馴染としての関係も終わりだ。


 そう思うと、どうしても告白を躊躇してしまう。


 そして、さらに俺を悩ませているのは縦屋先輩のこと。


 弥居子ちゃんの心が縦屋先輩にどんどん傾いていき、そして、縦屋先輩の告白を受け入れてしまうことになれば、その時点でもう俺の出番はない。


 今までは、誰に告白されたとしても、受け入れることはなかった弥居子ちゃん。


 しかし……。


 あれからも弥居子ちゃんは、


「縦屋先輩への返事、どうしょうか迷ってるんだ。縦屋先輩、イケメンだし……」


 と俺に対して言ってくる。


 弥居子ちゃんがここまで言うことは今まではなかったことだ。


 縦屋先輩に対して心が相当動いているのだと思う。


 俺はこの時、そこまで深く考えてはいなかったのだが、弥居子ちゃんはイケメンがタイプだったのだ。


 だからこの時も縦屋先輩に心が動かされ、沼糸土先輩にも心が動かされることになったのだろう。


 現実というものは、とても残酷なものだ。


 今にして思うと、この時の俺の最善の選択肢は、ここで弥居子ちゃんと疎遠になることだった。


 そうすれば、


「寝取られ」


 ということ自体が存在しなくなる。


 俺がすさまじい苦しみを味わうこともなかっただろう。


 しかし、この時の俺は、


「弥居子ちゃんには、縦屋先輩の告白を断ってほしい」


 と思っていた。

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2024年12月2日 07:07
2024年12月2日 21:07
2024年12月3日 07:07

前世では恋人になった幼馴染を寝取られて短い生涯。今世ではBSSを経験。でも前世と今世で俺を苦しめた人たちのその後は……。今世では運命の人と恋人どうしになり、結婚して一緒に幸せになりたい。 のんびりとゆっくり @yukkuritononbiri

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