第15話 どうせなら、皆で行こう


「陽太! 陽太‼ 見に行こう‼」

「あ~、けど、映画のチケットって高いしな…………」

「遠慮しなくていいぞ、陽太。まだ二、三十枚は余ってるからな(ニヤニヤ)」

「なんで、そんなにあるんだよ⁉ ってか、いい加減、ニヤニヤするの止めろ‼」


 俺はこの提案がほぼ確実に通ってしまうことを感じ取り、頭を抱える。別に神崎と映画を見たくないわけではない。

 ただ、映画館で一緒にいる所を今日の天野のように学校の人間に見られでもしたら、確実に面倒な事になってしまうのだ。


「ちくしょう……なんでそんなの持ってるんだよぉ…………」

「たまたまだ。諦めて、夫婦らしいことをしてこーい」

「グッジョブ、篠原。映画館デート、陽太をドキドキさせてみせる」

「え、えっと、葵、頑張って…………‼」


 僅かな希望であった天野までもが神崎を応援し、こちらを擁護してくれない以上、行かないという選択肢は選べなくなった。覚悟を決め、デートに行くしかない。


「陽太、明日! 明日にでも行こッ‼」

「…………あぁ、そうだな。そうしよう…………」

「楽しんで来いよ~(ニヤニヤ)」


 だが、ただでは行かない。一樹、お前を道連れにしてやる…………‼


「なぁ、提案なんだが、一樹と天野も一緒に見に行かないか?」

「えっ⁉///」

「デートは二人きりが定番だろうが‼ 複数人でのデートなんてゲームでも中々ないんだぞ‼」


 ツッコむ理由がゲーム脳すぎる友人に内心、苦笑しながら、顔を分かりやすく赤らめている天野へ狙いを集中させる。


「なぁ、天野。お前もこの映画、見たくないか? 確か、学校の女子の間でも話題になっていたよな?」

「う、うん……でも、これって、二人のデートなんじゃ…………」

「気にしなくていいさ。な、神崎?」

「うん。私は陽太とイチャイチャ出来れば、他に誰がいてもいい」


 予想通り、俺と行くことさえできれば良い神崎から理想の回答を引き出すことに成功した。あとは天野を陥落させれば、流石の一樹でも断れない。


「ってことだ、天野。一樹も合わせて、四人で行こうぜ」

「で、でも…………」

「というか、二人がいた方が都合がいいんだ。万が一、学校の奴らに見られたとしても、それぞれが友人と来たって言えるからな」


 ダメ押しとばかりに目立ちたくないという俺の心情を交えた理由を伝え、行くことに対するハードルをさらに下げさせる。


「…………たい、です」

「ん?」

「行きたい、です…………///」

「よしっ、決まりだな。一樹、悪いが天野の分も用意してくれ」

「え、いや、俺、行くって言ってないんだが…………?」

「ほぉ~? 普段から多くの女の子を攻略しているお前が、女子が行きたいと言ったのに断るんだな~」

「……………………え、篠原くんって、そんな人だった、の?」

「ち、違うぞ⁉ ゲームの話だからな⁉ おい、陽太、誤解されるようなことを言うな‼」

「え~、でも、モテるだろ~?(ニヤニヤ)」


 やられたらやり返す。相手が親友であるなら、倍返しをするのが最大限の礼儀だからな‼


「そ、そっか、モテるもんね、篠原くん…………」

「あ、天野⁉ どうした⁉ 何というか全身から『どんより~』って、オーラが出てるぞ⁉」

「ほらほら~、ゲームで培ったスキルをフルに活用しろよ~」

「男を見せろー」


 落ち込む天野を前に、慌てふためく一樹に俺と神崎で追撃を仕掛ける。


「息ピッタリだな、この夫婦ッ‼ あ、えっと、あ、天野‼ 俺も行くから、そんなに落ちこまないでくれ‼」

「…………ほんとに?」

「あぁ、ホントだ‼」

「…………約束、だよ?」

「ウッ…………⁉」


 首をコテンッと傾げ、上目遣いで一樹を見つめる天野。あまりの可愛さに変な声を上げ、椅子にもたれかかりながら気絶する一樹。


「し、篠原くん⁉」

「勝者、天野咲良~」

「咲良、勇気を出したね。よく頑張った」

「いやいや、二人とも⁉ 篠原くんが気絶してるよ⁉」


 気絶させた本人が何を言ってるのやら。そう心の中でツッコみながら、俺達は食事に戻るのだった。



―――――――――



次の次ぐらいにはデートを書きたい…………‼



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