Epilogue
心を穿つ刃はないけど
結論だけ言うが、魔神の問題は殆ど片付いた。
あれ以来、周囲に現れる下級悪魔の数もめっきりと減ったし、普通の人が悪魔の姿を見ることもなくなった。
ただし、魔神を宿したままの彩歌は、未だ悪魔の姿が見えるままなのだが。
それで蒼矢はというと、悪魔祓いとして、新しい試みに挑戦していた。
「はぁ……。今回もダメだった……」
「でも宿主さんには後遺症が残らなかったんだから、ツーアウトってところじゃない?」
公園のベンチで蒼矢が俯く。その丸くなっている背中を、彩歌は撫でている。
彩歌の慰めは、本当に慰めようとしているのか怪しい。
深く息を吸えば、12月の冷えた外気が蒼矢の肺に刺さった。
「最近はずっと失敗続きなんだけどな……」
今の蒼矢が挑戦していること。それは、悪魔との『対話』だ。
魔神と心を通わせた彩歌を見たのがキッカケだった。
人に憑いた悪魔を、
とはいっても、今のところ、成功例よりも失敗回数のほうが圧倒的に多いのが現実だ。
今日の悪魔とも交渉は決裂して、立会人の蒼矢の父親によって強制的に浄化されてしまった。
「仕方ないよ。あの悪魔はどうしようもない害意の塊でしかなかったって、この子も言ってるし」
「魔神がねぇ……そういう悪魔をどうするかってのも、課題か」
ちなみに彩歌には、一番最初の成功例として、悪魔祓いに付き合ってもらっている。
本当は魔神に関しては、ほとんど彩歌単独の功績なのだが、両親を説得する材料として協力してくれた。
おかげで、悪魔との対話の可能性を、認めさせることができた。
現在は他の悪魔祓いの立会いの下、対話での祓い方を模索している最中なのだ。
「というか、また随分と仲良くなったんだな?」
「フフフ、まあね。これでも、蒼矢君の相棒ですから!」
「――相棒、か」
急に視界が開けた気がした。
半年ほど前に魔神が暴走したのは、自分の独りよがりが原因でもあると、蒼矢は考えている。
あの頃の蒼矢は、自分一人でどうにかしようとばかり考えて、誰かを頼ろうとも何かを求めようともしなかった。
周りを信じられず、したくても――できなかった。
でも、今は違う。隣には彩歌がいる。
「よし、次こそは悪魔と分かり合って見せる!」
「うんうん、その意気だよ!」
蒼矢が勢いよく立ち上がると、彩歌が思い切り背中を叩いて、気合を入れてきた。
「痛ぇよ」
「さ、そろそろ行こ。今日はこのあと、中央で買い物に付き合ってくれる約束でしょ?」
そう言われ、手を引かれる。
最近は遠方での仕事が多かったから、彩歌とゆっくり出掛けるのも久しぶりだ。
いったいどこへ連れていかれるのやら、なんて考えていると、視界に白色がチラついた。
「雪だ……」
思わずつぶやくと、彩歌も足を止める。
「あっ、ほんとだ。初雪だね!」
掴まれた手が解かれる。
彩歌が上を見上げるのを真似して、蒼矢も空を仰いだ。
ふと横を見ると、彩歌は赤くなった手のひらに、はぁっと息を当てている。
魔神と悶着していたのが、まだ気温の上り坂だった頃だと考えると、時の流れを実感させられる。
「もうすっかり冬だよね~」
「だな」
舞い降りる細雪をぼんやり眺めていると、隣から嬉しそうな鼻歌が聞こえてきた。それで、蒼矢の気持ちが昂ってくる。
さっきは相棒と言ってくれたが、それ以上の関係になりたい……。
「なあ、彩歌」
鼓動は痛いくらいに早くなっていたが、口を開かずにはいられなかった。
「24日って、予定……空いてるか?」
振り返った彩歌は、いつものように、ニッコリと笑っていた。
――終――
聖なる刃は神の心を穿てない 鷹九壱羽 @ichiha_takaku
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