第10話「ボーイ・ミーツ・ニン」
忍がいようが魔法少女がいても変わらない朝がやってきて、俺はいつもと変わらないコーヒー牛乳を飲む。
「……カフェオレだこれ……」
俺は渋い顔のまま牛乳を足した。
苦いのは苦手なのだ。
「失敗したな……」
パックの商品名を見る。
まごうことなきカフェオレだ。
全部飲み切る自信がないぞい?
「そうだ、飲みかけだが愛園さんにあげよう。いや、気持ち悪いか? 愛園さんだしきにしないだろ。ついでにカフェオレと合う茶菓子も付けるか。開封済みだしな。苦いから甘いもの、そうだな、マドレーヌを焼こう。アーモンドとチョコチップとノーマルだ」
で、焼いた。
ピクニックに行くのかとバケットいっぱいにマドレーヌを入れて、口の開いたカフェオレを持ってお隣さんちに訪問しようとしたらいた。
「あれ? 忍のとの男子だ」
名前は確かリクだったな。リクは学ラン姿で誰かを待っていた。愛園家から出てきたのは愛園アキラくんだ。アキラくんも夏休みなのに学ランだ。補習かな?
そうか。
リクとアキラくんは同級生か。
魔法少女の兄と次期忍の頭領が友人だとは、世間とは秘密があちこちにあるこのだな、うん。
と、言うことはフィッシュタウンにはディープソング団と謎の忍者集団という2つも裏の悪い組織がいるわけか。大変そうだな。
◇
「心配ねぇ〜」
「なんだよ?」
「ブサイク顔が言うことかね」
「はったおすぞ」
元龍くんが拳を振り上げる。
俺は服の下の折り畳み式の『大砲』を展開して銃口を元龍くんに向ける。22口径の特性ロングライフル弾を3発も受ければ元龍くんもたぶん死ぬだろう。
元龍くんは拳を引っ込めた。
俺も大砲をガチャガチャ押し戻す。
「アキラや愛美が心配なんだよ」
「わかる。可愛い無邪気な世代だ」
「無邪気かはともかく……最近のあいつら、知らない場所で知らないことばっかりしてるみたいだ。何かあるんじゃないかと心配なわけだ」
「へぇー」
「おい、話聞いてんのか、宗馬」
「元龍くんの家庭内問題でしょ」
「いや、テメェはご近所さんだ」
「そうだけど?」
「ご近所さんの目でアキラや愛美をちょっと見といてくれ。特に愛美。ろくでもない男でも助ける性格だぞ、アレ。カミさんにそっくりだ」
「だろうね」
と、俺は元龍くんを見る。
元龍くんが気まずく目を逸らした。
「と、とにかく頼んだ! 頼む!!」
元龍くんが頭を下げる。
「無理」
だが俺は即答した。ポポタとの約束もあって魔法少女に近づけないのだ。今度こそ突然変異銃でもぱぱぱぱとされて蛙になっているかもしれない。
「薄情者!」
「……うるさいな……」
椅子が軋む。
少し溜息だ。
忍のほうが忙しい。魔法少女は問題がないのだろう。忍が裏で邪な活動をしている理由が分からないのは怖い。いきなりバラバラに暗殺されるかもしれない。忍は怖い生物なのだ。
「ストーキングはちょっとな」
「アキラだけでも良い。アキラならくっついてても違和感が無いだろ。最近は3人でつるんでる。相手は男と女だ。たぶん付き合ってる。それにアキラが入ってるんだぞ、絶対に闇堕ちする」
「アキラくんをなんだと……」
その2人てのは十中八九、アカリとリクさんだろう。愛園家前で見たな。忍組だ。世間は狭いが、親公認なら忍を探ってみようか。普通のおじさんの範疇くらいなら大丈夫な気はする。
◇
「……そ、そ、宗馬さん……?」
「おぉ、アキラくんじゃないの」
「なにしてんスか!?」
偶然、アキラくんと遭遇した。
奇遇もあるものだなまったく。
「林間学校すよ偶然じゃねぇて……」
「同じ敷地がキャンプ場なんだよ、アキラくん。山を2つほど越えればへっちゃらさ」
「げ、元気すね……」
元気も何もおじさんは四六時中、体のどこかしらが不調なので元気じゃなくても動かなければならないのだ。
今回はアルバイトを捻じ込んだ。
日雇いでキャンプ場の掃除だね。
日当を現金払い手渡しされるよ。
1日働いて1万円。
そんなことより。
「アキラくん、アキラくん」
「なんだよ、おっちゃん」
「例年は自主申告の補修学校をサボってるのに今年は来るんだね。むしろその方が驚きだ。俺は毎年、この近くで働いてるから知ってるが、アキラくん来たことないでしょ」
「それが大変なんだよおじさん……」
「どうかしたのかい?」
「リクの野郎……あぁー、俺の同級生の友達なんだが、そいつが補修学校に彼女だとかに強制的に連れ出されることになったんだ」
「うん」
「そしたらリクの野郎、1人は嫌だとかで俺の名前まで出しやがった! 学校の連中は俺が毎年サボってるの知ってるから、これ幸いてリクに首輪を付けさせて強制連行だよ!!」
「そっか」
「おっちゃん俺の話聞いてる!?」
「まあ頑張るしかないよ」
「そうだけどよぉ……」
アキラくんが溜息を吐いた。
少年は精神的に疲れていた。
「あれ見ろよ」
アキラくんが背中の先を指差す。
ひょっこり顔を向けて見れば、赤い植物が覆われたマンション──林間学校の施設だ──と、その隣の炊事場で体操服姿の男女が飯盒で米を洗っていた。
そうだった。
アキラくんの学校の山での補修は、農業体験やサバイバルもセットなんだ。健康な精神の為云々だとかだったね。
「あー……」
「山登りはあるし、夜は虫に喰われて痒いし、飯は野菜ばっかで肉が無いし火起こしだの原始人な生活なんだ」
「あー…………」
大変だな、アキラくん。
可哀想か良い経験なのかは俺には判別がつかないので忘れよう。アキラくんが参加してしまっているのならどうしようもない。
「で、アキラくんの班は?」
「リクのバカと南方院さんは竈門で火を起こしてる。ライターも無いんだぜ」
「南方院さん?」
「あぁ。俺、リクのバカ、南方院さんの3人で班なんだ。リクを引っ張り出したのが南方院さん。俺もよくは知らないんだけど転校生じゃね?」
「ふーん」
アキラくんは南方院さんを知らなかったのか。転校生としてリクの近くにやってきたてことかな。
「色々あるんだな」
遠目に見つけた。
南方院さんとリクだ。
米をおっかなびっくり研いでいた。
研いでいるのはリク。
隣には南方院さんだ。
あッ、南方院さんがこっち見た。
一瞬、殺意の鋭い目線だった。
しかしすぐに平常な感じになる。
手を振ってくれた。
見ていたのを気づかれている。
「そうだ、おっちゃん、助けてよ!」
「アキラくん、頑張って!!」
「チクショー!!!!!!!」
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