第8話「世界はいつだって握手を求めている!」

 ウシオデパートから帰ってきた。


 ソファーに下着姿で倒れこんだ。


 魔法少女セラムーとセラメガラ。


 地球産のマギロイド、だったな。


 ディープソング団にギルギル人。


 フィッシュタウンには大きすぎる事件だ。


「おっと」


 何かが転がる音を聞いて顔をあげれば、拾った真珠に似た硝子玉2個が棚を転がっていた。落ちる前にキャッチした。


 落ちたら割れてしまうところだ。


 真珠擬きは小さな座布団に載せてだ。


 ソファーに座り直して考えた。


「こんばんわぽぽ」


「あぁ、こんばんは、ポポタ」


 部屋からポポタの声が聞こえた。


 俺が魔法少女セラメガラの誕生のときに止まっていなかったのを見抜かれたかな。ポポタは疑っていた。当たりをつけられていたわけだ。


「お前、何者だぽぽ」


 ポポタはヌイグルミみたいな愛嬌のある丸っこく寸胴な体で、半自律随行砲撃艇を浮かべている。極めて攻撃的な機械兵器だ。


「俺? 俺は近所に住む普通のおじさん」


「嘘吐くなぽぽ」


 ポポタが熱線を撃った。


 ソファーが焼けて穴だ。


「わかった、ポポタ。穏便に話しあおう。我々は知的生命体であり、対話可能な周波数の言語も備えている。友愛、俺の好きな言葉だ」


「記憶が残ってる、タキオンフィールドの結界にいるのに静止しない……明らかにイレギュラーぽぽ」


「可能な範囲で邪魔はしないよ、ポポタ」


「存在が危険ぽぽ」


「まいったね……」


 ポポタが照準を俺に合わせる。


「……だけど愛美ちゃんの性能に重大な影響も考えられるぽぽ。宗馬の代替を用意しても想定外のエラーが生じる可能性もあるぽぽ」


「ポポタが無駄に動いて状況を悪化させることもありえるわけだ。ポポタは俺を知った。だが俺を消せば、知らないことが起きてしまうかもしれないな」


「文明度の低い人間が、不愉快ぽぽ」


「これは失礼。許してもらえるかな」


 ポポタはマギロイド建造と、管理に責任感をもつタイプか。内々に片付けようとするのは自己保身かな。責任感があるからこそ仲間には素直に打ち明けるかな。


 ポポタは仲間に話せない。


 ポポタしか地球にはいない、少なくともポポタは誰にも頼れないと置いている。でなければポポタが自分から姿をあらわさない。いざというとき、もっとも信じるのは自分てタイプ。


 愛園さんを使って遠回しに俺を管理するでなく直接排除の手段を選ぶし、セラメガラの強行は俺への警戒からの戦力アップというわけだな。


 しかし俺はまだ生きている。


 ポポタは交渉したいわけだ。


「手を引くぽぽ、関わるなぽぽ」


 ポポタは要求だけ突きつけると、窓から外に出ていった。甘いなポポタ。それを守らせるために、俺の心臓に爆弾でも埋めこむべきだ。


 ポポタは口約束の警告が好きらしい。


「物騒なマスコットだよな?」


 俺は玉に話しかける。


 しかしこの玉、どんどん綺麗になるな。



『またまた大活躍セラムー!』


『新たな魔法少女!? セラメガラ!』


 そんな愛園さんと潮さんの活躍を小耳に挟みながら、ディープソング団と魔法少女の戦いは俺の生活から遠くになった。


 普通の人にとってもそうか。


 日常にディープソング団との戦いがくっついているが、それは、セラムーとセラメガラを応援するイベントになっていた。


 戦い、連勝、無敗の乙女達。


 フィッシュタウンの英雄だ。


 彼女達が中学生と知っている人間はいない。仮に中学生の女の子だとしても止められないだろう。ディープソング団を止められるのは、愛園さんと潮さんだけだ。


 ビッグシャチは正々堂々にこだわっているのか、戦いはショーとなり、フィッシュタウンの風物詩として溶け込みつつある。


 奇妙な話だが、愛園さんや潮さんも、どこか、ディープソング団との戦いを命懸けの死闘だとは考えていないようだ。


 戦いには真面目だ。


 それが悪いこととは言わないけど。


『警官隊と自衛隊に大損害』


 電気屋のテレビにほんの僅かに流れたテロップには、そんなことが書かれていた。ディープソング団に対抗しようとした行政の敗北だ。


 勝利の連続。しかし裏では打つ手なし。


 ポポタに関わるなと言われたしな……。


 さっさと買う物買って帰るか危ないし。


 ん?


 俺に影が落ちた。


 空を飛んでいる?


 振り返ればそこには、大股を開いているずぶ濡れの美少女とスカートの内の神秘であるスケスケなパンツに顔面を襲われていた。



「着替え、置いときますからね!」


 風呂場から「はーい!」とお姉さん声。


 まだ、ドキドキしているのが止まない。


 目の前にパンツと女の子が落ちてきて顔面に当たれば誰だってそうなる、俺はなる。


 魔法少女の次は忍者だ。


 忙しい世界なもんだよ。


 ただの忍者じゃない。


 ウルトラニン集団──通称UN。


 ハイテク武装忍て世界の暗部だ。


 ステルススーツで首を斬り落とされても、気がつけないような怪物集団のはずなんだが……風呂場から上機嫌な鼻歌が聞こえてくる。


 ハニートラップか!?


 偶然とは思えない気を抜くな俺。


「あの……お尻が入らなくて上衣だけ……」と、すごすごと、やってきた少女はぶかぶかのシャツだけの姿である。


 お尻が入らないなら仕方ないよな!


 緊張する。


 女忍だぞ。


 何が飛び出すやら。


 口からビームか!?


 聞いたことがある。


 ある女忍はターゲットをキスして仕留めた。毒の効かないサイボーグのターゲットを仕留めたのは喉に仕込んだ高出力レーザーの照射だったそうな。


 まさか濡れたパンツも生体を分解する肉食細菌の温床として、既に俺の体内にあるのか!?


 忍……なんと恐ろしい……。


「南方院アカリです! いただきます!」


 名乗りと食事が同時に起こった。


 まあ……これが、南方院さんだ。


「一宿一飯をいただけるとは!」


「泊めるとは一言も……別にいいんですけどね。そんな絶望したみたいな顔をしないでくださいよ。悪いことしてる気分になっちゃうでしょ」


 アカリは絶望から復帰して、カキの混ぜこみご飯を吸いこんでいた。茶碗と直結された胃袋にどんどん流れていく。


 俺は炊飯器の残量をチェック。


 俺はアカリよりも小さい茶碗に、少しだけ寄せて醤油をかけた。アカリは醤油をかける暇があればとにかく食ってる。


「最近はディープソング団とかいうのがフィッシュタウンにいるそうじゃないですか。恩返しにホームセキュリティはどうです? お安いですよ、なんと、僕がここで困らなければ良いだけで充分という破格のお得さ!」


「飯と宿目当てでしょ」


「さ、さぁ……?」


 抜け忍感が増したな。


 忍でも問題事の忍だ。


 嫌だぞ家ごと爆破されるの。


「雅な玉ですな。大玉の真珠ですか」


 と、アカリが箸を休めて言う。

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