第7話「新たな魔法少女!?セラメガラ!」
気まずい。
ファストフード“マックスコーン”の一席で、愛園さんと潮さんが対面に座る。注文のプラカードの番号がテーブルにあるがまだオーダーはこない。
「失礼ですが、おじさんとはどのようなご関係なのでしょうか?」と、愛園さんだ。
愛園さんがテーブルを人差し指でコツコツと叩く。モールス信号を打ってるのかな。暗号化されているようで復号できない。
「一夜を共に過ごした男女の仲ですけど何か。興味あるの?」と、潮さんだ。
「あはは、面白いジョーク」
「おじさんは少し静かに!」
「はい……」
「ふッ。見た目と違う凶暴女ね」
潮さんはツンツン娘なのだ。突然、仲良しではない雰囲気を浴びせられたらもう彼女はきっとウニみたいになってしまう。
愛園さんと潮さんのファーストコンタクトは失敗だ。SF映画や小説なら宇宙戦争になりそうなくらいすれ違っているのはわかる。
そう、知っている人間が知らない所で異性と繋がっていたのを初めて知ったらモヤモヤするよな。
俺だってそうだ。
嫉妬してしまう。
恋愛が絡まなくとも、そうなる。
だからこそ今この状況は危ない。
愛園さんと潮さんが一生すれ違うかも。
「ご注文のフィッシュチップバーガー、カリカリチーズポテト、海鮮バーガーとお飲み物をお持ちしました」
マックスコーンの店員がトレーに乗せられたオーダーの品を置いて番号札を回収していく。
愛園さんと潮さんの間に楔が入る!
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ!
「さ、最近は魔法少女が有名だな?」
アホか俺はー!?
愛園さんの前で魔法少女話題だと!?
だが咄嗟に出してしまえば戻せない。
こ、この魔法少女カードで勝負だ!!
「魔法少女なんているのかな!?」
と、愛園さんは目をぐるぐる渦巻き模様を浮かべて混乱している。やめい、かえって怪しいから。
「ふぅ……セラムーのことよね」
潮さんがバニラシェイクを飲む。
ズズッとストローを通っていた。
「彼女の魔法て見たことない。変身はするけど、パンチに噛みつき。魔法て神秘と奇跡はどこにあるのかしら」
潮さんがストローから口を離して言った。話題に喰いついたのが良いか悪いかともかく、話が膨らみそうだ。
セラムーの正体を隠し、話を続ける。
「今は、不思議な力全般を魔法と総称することが多いです。少女が変身して魔法少女になるのは充分な魔法と呼べますよ。潮さんは魔法少女にご興味が?」
「宗馬兄さんはどうなの?」
「勿論ありますよ。美人な女性に男は弱いですから。それがどんな秘密の力を隠していたとしてもです」
愛園さんがオレンジジュースをストローで吸う音が激しくなる。やめい。
「魔法少女か」
潮さんは鼻で笑う。
「──興味があるぽぽ?」
お前、どこから……ポポタがあらわれた。
時間の流れが妙だ。
ポポタと潮さん、それに桃園さんだけが高密度タキオンパーティクルに包まれていて時間を加速しているのか。つまり超加速時間の中に、2人と1匹は切り離されているわけだ。
「ポポタ! ここじゃ人目があるのに」
「安心するぽぽ、愛美ちゃん。今の僕達は特殊なフィールドにいることで中と外で時間の流れが違うぽぽ」
「本当だ。おじさんが止まってる」
我慢してるだけだから早くしてくれ。
「それで葵ちゃん」
「気安く呼ばないで珍獣」
笑いで吹き出しそうになった。
「キミは魔法少女の資格があるぽぽ。魔法少女になって一緒に戦ってはくれないぽぽか?」
ポポタが潮さんを勧誘する。
勧誘された潮さんは、すぐに断ると思っていたが意外にも迷っているようだ。
「……特別な力があるのはセラムーで知ってる。でも! それだけじゃ魔法少女になりたくない」
「なんでも願いを言うといいぽぽ。ちっぽけな地球の人間の願いくらいなら僕らの技術で大抵は叶えられるぽぽ」
「なんでも……」
揺れるんじゃない潮くん!
「それじゃ、パパを作ることは?」
「簡単だぽぽ。ただし魔法少女になって、ディープソング団を全滅させることが条件ぽぽ」
潮さんはほんの数秒だけ迷っていた。
だが彼女の決意と覚悟は即断された。
「私、魔法少女になるよ」
「契約成立ぽぽ」
「ちょっと待って、ポポタ! そんな急すぎるよ! 魔法少女て簡単に増やせるものなの!?」
「セラムー、安心して。あなたの特別を奪おうなんて考えてないわ」
「違う、違うよ、潮さん!」
「愛美ちゃんには仲間が必要ぽぽ。ビッグシャチはバカじゃないぽぽ。先の戦いでは的確に愛美ちゃんの弱点を突いてきて危なかったぽぽ」
「それは……そうだけど……」
愛園さんは迷っている。
潮さんが魔法少女になる。
それはディープソング団との戦いに巻き込むということだ。愛園さんは2回、戦っているからこそ、潮さんを魔法少女にするのはやめさせたいと思うのだろう。
愛園さんはうつむく。
潮さんを止めたい!!
しかし、かける言葉が無いのだ。愛園さんと潮さんが出会ってからまだ数時間と経ってはいない。あまりにも短い時間で、でも愛園さんは、ありきたりな言葉をかけられないからこそ何もいえないのだ。
危ないから魔法少女にさせたくない。
愛園さんにも、跳ね返る言葉なのだ。
「契約は成立ぽぽ」
ポポタが勝手に話を進める。
どこからか取り出された注射器の針を、迷わず、潮さんの背中に刺した。
「新たな『魔法少女セラメガラ』ぽぽ」
止まっていた──正確には限りなく遅くなっていた──時間の流れが戻り始めている。
「あれ?」
と、俺は演技した。
時間の流れが戻る。
店内のミックスされて意味を失っている声や、ざわざわとした波の寄せるようなものが帰ってきた。
愛園さんと潮さんは座ったままだ。
ポポタは、どこかへと隠れていた。
「ど、ど、ど、どうしたのかな!?」
愛園さんがえらいどもりながら言う。
魔法少女セラメガラの誕生には、愛園さんもちょっと混乱しているのかも。正直、俺も驚いている。
ポポタが潮さんに刺した注射だ。
あれは、原子エッチングされたマギロイド用ナノマシンぽい。ギルギル人が地球人を相手にしている理由、か……マギロイド化したら大変だろうに。
「おじさんこのフィッシュバーガー美味しいから!」と、愛園さんにバーガーをぶちこまれた。
美味かった。ちょっと塩味だ。
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