第6話「美味しいチャンスは愛情から!」
フィッシュタウンの恐怖。
ビッグシャチとその怪人の襲撃。
町では大混乱というほどではないが、最初に現れてから、そして次はおさかな感謝フェスへの襲撃で緊張が高まっているのを肌で感じる。
窓から、引っ越し業者が見える。
ディープソング団の襲撃は続くだろう。
それに不安を感じる人は、少なくない。
夏休み中だけ地元に帰るという選択肢が人気だ。夏休みが明ける頃には事件も終わっているはずだ、という考えからだ。
「ふむ……」
怪人の跡地で拾った玉が2つ。
特に意味はないが、やたらとすぐに煤を被ったように黒くなったり、黒いオイルのようなものが滲むのでマメに磨いている。
すっかり吐き出したらしい。
玉は真っ白な大粒の真珠と同じくらい輝くようになった。棘がいつのまにか削れてしまったのは気になるが……大丈夫だろう、たぶん。
「お前達は本当に綺麗になったな」
もう何度声を掛けてたわからない繰り返してきた言葉をもう一度言う。日課みたいなものだ。独り暮らしは寂しい。玉でも話しかけるというものだ。
「最近、新しい友達ができたんだ。この俺がだぞ。凄いことだからな。潮葵て女の子なんだが、ちょっと気がツンツンしているが可愛い女の子なんだ。素直すぎると生きるのは大変そうだがな」
魚のゴミの山を見て、潮さんは心を痛めていた。命に対して率直なのだろう。他の人と合わなくて浮いていなければいいんだが。
余計なお世話だな。
まったく、他人を詮索するとは。
邪推というのだぞ俺気をつけろ。
「そういえば」
愛園さんとアキラくんは、夏休みだというのに元龍くんに外で遊ぶことを止められているそうだ。
ビッグシャチの事件が頻発だしな。
元龍くんの不安な気持ちはわかる。
だが愛園さんやアキラくんの不満も溜まるだろう。良い手があれば良いのだが。軟禁の夏休みというのは俺くらい変人でないと辛いものがある。
玉を磨きながら考えていた。
「あッ、電話だ」
よっこらしょと立ち上がり受話器をとる。なんだ噂をすればの愛園さんじゃないか。
『パパが一緒にデパートにて!』
そういうことになった。
◇
「……すみません、宗馬さん」
「暇だし良いですよ元龍くん。家庭が無い暇な男ですからいつでも呼んでください」
「は、ははは……今度のパーティーも宗馬さんを招待しますので勘弁してください」
「わぁ、俺、元龍くんの料理も好きです」
ウシオデパートにやってきた。
凄い大きなデパートで、駐車場には数千台も止まれるし、巨大な敷地、何階までも高くある店内には無数の店舗が並んでいるマンモスデパートだ。
元龍くんは1人で2人を見られるか心配ということで、俺を誘ったらしい。愛園家の異物すぎないか俺?
「愛美がノータイムで宗馬さんに電話するとは……」と、元龍くんはアキラくんの背中を追う。高校生のアキラくんは元龍くんを鬱陶しいて感じで振り切ろうとしながら、迷いなく玩具屋トイパラダイスに入った。
さて、俺は愛園さんだ。
愛園さんはどこに行くんだろ。
桃色で糸目短眉が見上げてる。
「愛園さん少し背が伸びましたか」
以前なら、頭突きロケットしても俺の顎には届かなかったろうが、今は、かわさないとダメぽい。
「愛美は日々成長してますから」
と、愛園さんは柔らかい唇で微笑む。
唇が鮮やかだ。リップクリームだけでなく淡い桃色でナチュラルに口紅も入れているのだろう。
愛園さんは気合いを入れている。
良かった、一応、スーツを着て髪型を整え靴下まできっちり恥をかけないよう固めて正解だ。愛園さんを見ろ。俺がもしパジャマで着てたら大変だったくらいオシャレだ。高級ブランドものではないようだが、爽やかなミントグリーンを基調にして夏の軽やかさがある。
まるでデートだな。
「今日も綺麗ですね、愛園さん。特に緑が夏て雰囲気がして好きです」
「うふふ。ありがと、おじさん」
愛園さんに腕を奪われる。
すっかり俺の腕は愛園さんに抱きしめられて、どこかへと連れていかれるようだ。
愛園さんは乙女だな。
デートの練習の機会なのだろう。
……いつか必ず愛園さんにボーイフレンドができると思うとちょっと気が重いが、今はそんなこと考えている場所じゃない。
愛園さんは楽しもうとしている。
羽ばたく小鳥の背中を押しはしても、その足に鎖を付けて縛り付けるものではない。
「あれ? 宗馬兄さん」
「潮さんじゃないですか」
潮葵が散髪屋からちょうど出てきた。
ツインテールだった髪はすっかりショートヘアまで短くなっていたが、日に日に暑くなる季節にはよく似合っているし、潮さんニューモデルだ。
「失恋でもしました?」
「うるさいわよ。イメチェン」
と、潮さんは俺の腕を抱く愛園さんを見た。愛園さんは慌てて腕を解放した。
「紹介しますよ。こちらが愛園愛美さん。愛園さん、潮葵さんです」
「は、はじめまして……」
「……どうもはじめまして」
「……」
「……」
初対面なら緊張もするよな。
俺だって上手く話せないぞ。
俺は寡黙な人見知りの男だからな。
しかし潮さんには悪いが一緒にとはいかない。初対面であるからこそ、今日を楽しみにしていた愛園さんはがっかりしてしまう。
楽しむ余裕は無くなるかもだ。
「それじゃ潮さんまた今度」
「えぇ、また遊びにきてね」
「ちょっと待って」
と、愛園さんが腕を引いた。
今日は愛園さん主張が強い。
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