第4話「襲撃!おさかな感謝フェス!」

「ビッグシャチよ。これは何か?」


 俺様の筋肉が怯えている。


 無理もねェ……ディープキング様を前にしちまえば心も深海まで引きこまれて壊されるてな噂だ。


「ははッ」


 俺様は他の幹部連中の、色々と含んだ笑いを浴びながら耐える。もし声を荒げてディープキング様の何かに触れたら……俺様は怖い!


「オンネンパールのパワーを授かったアユ・マーメイドを撃退したのは、にっくき人類眷属の戦士セラムーです」


「そのセラムーとは」


「詳しくはまだわかりませんが、強大なパワーを秘めていなければアユ・マーメイドを倒すことは不可能です。海洋解放同盟ディープソングの脅威になると──」


「──面白いことを言うなビッグシャチ」


「……口を挟むなシスタークラブ。俺様はともかくディープキング様のお言葉を遮る」


 俺様はディープキング様の顔色をうかがう。少なくともいきなり深海には落とされそうに無い。


 安心した。


「ふッ……腑抜けだな、ビッグシャチ」


「なんだと?」


 ディープキング様ならいざ知らず、同格の幹部とはいえシスタークラブの態度は許せない!


 俺様の体が力んで数倍に膨れる。


「ビッグシャチよ」


「……はッ。お見苦しい姿を見せました。お許しを願わせていただく許可を、ディープキング様」


「許す。……シスタークラブよ」


「はッ。ハサミを閉じておきます」


 ディープキング様のお言葉は絶対だ。


 流石の蟹女も泡はもう吐けないだろ。


「ビッグシャチよ。貴様の最優先はオンネンパールの収穫だ。それを決して忘れるでないぞ」


「はッ。全てはディープキング様の御心に」


 セラムーは確かに脅威だ。


 だが、所詮は人間の小娘。


 リベンジマッチといこう。


……だがオンネンパールが優先だな。


「ディープキング様。俺様、次の狙い、オンネンパールの抽出にめどをたてております」



 世は夏休み。


 旅行、冒険、一日中ゴロゴロ!


 1ヶ月以上のお休みに浮かれる。


 俺は年中夏休みなので変わらん。


 ビデオショップ“AAAZ”の店員。


 俺の数々ある肩書きの1つでな。


「これ、これを寄越せ」


 ビッグシャチがカウンター台にビデオテープを置く。タイトルはビッグジェーンロボ、8巻だ。


 魚全然関係ないロボットアニメだな。


 俺が独断で店頭に並べていたビデオ。


 ビッグシャチのシャチの腕が持った。


 どう見ても二足歩行するシャチが白昼早々とレンタルビデオショップにやってきているが俺は微塵も表情に出さない。


 ビデオのバーコードをリーダーで読み取って、ケースからビデオを取り出し、レンタルバッグに移して、返却日を伝えるだけだ。


「ところで人間」


 ビッグシャチが話しかけてきた。


「おさかなフェスが今日あるらしい。港でな。チラシを置いておくから行ってみろ」


 と、ビッグシャチは大股で帰った。


 絶対罠だろこれ間違いなく策略だ。



 魚臭さが染みる漁港と市場。


 おさかなフェスとやらの開催はここか?


 フェスをやるチラシとか全然見かけなかったが、けっこう人が集まって賑わっていた。想像よりも大きなお祭りのようだ。


 漁港らしく新鮮な魚が並んでいる。


 だが料理されたもののが人気である。


 揚げ物、海鮮丼、飛ぶように売れる。


 買い歩きながら新鮮な海鮮食品を食べている顔は、美味いものをめいっぱい食べて幸せそうなだ。


 逆に、大物達は売れ残っていた。


 ブリみたいなのは気合いがいる。


 大きな魚は食べるのが大変だな。


「今晩はブリの煮付けにするか?」


「あッ、おじさん!」


「おっちゃんじゃん」


 市場でおろすような商品を吟味していると声をかけられた。愛園兄妹の愛園愛美さんと愛園アキラくんだ。


 兄妹でおさかな感謝フェスに来たのか。


 祭りとはいえなかなかシブい趣味だな?


「奇遇ですね、愛園さん、アキラくん」


「はい! でも、おじさんこそ珍しいね。私、おじさんをほとんど見かけたことがないのに。ラッキーな日だよ」


「言われりゃ愛美の言うとおりだな。おっちゃん、家の前じゃよく見かけるのにフィッシュタウンじゃどこにもいない。友達いないのか?」


「まあまあまあ、俺のことはね」


 ミステリアスな男のがモテるのだ。


 知られすぎては、退屈な男になる。


 そんな話を発泡スチロールに入ったブリの前で話していると、ずいっ、と、後ろから人影が滑りこむ。


「ウインドショッピングなら邪魔」


 深い青のツインテールの髪がムチのように揺れて、褐色の肌、鋭い月色の瞳が睨んでくる。歳は桃園さんと同じくらいだろうか。ツンと刺々しい雰囲気で、気が強そうだ。


 ツインテールツンツン少女だ。


「ごめんなさいね」


 と、俺は体をどけた。


 確かに邪魔だったな。


 ツンツン少女は鼻を鳴らす。


「なんだコイツ」


「まあまあまあ、アキラくん。他も見てみましょうよ。桃園さんと見にきたものはあるんでしょう?」


「……俺は別に。ただ愛美がフェスの美人コンテストにエントリーしたってんで、親父についてけ言われたんだ」


「美人コンテストですか?」


「あぁ、友達が出したて言ってたぞ」


 ちょっと意外だ。


 愛園さんてそういうのに興味あるのか。


 美少女なのは万人認めるとこだけどな。


「美人コンテスト……」


 俺は愛園さんを見て。


 綺麗な肉体だ美しい。


 下世話だが、愛園さんの胸は凪いた海のように穏やかだが、お尻は荒々しい兎の飛ぶ波のごとく大きい。セクシー中学生だ。


 愛園さんが真っ赤になって胸を隠す。


「おっちゃん……」


 アキラくんが呆れたような顔をする。


「愛園さんなら優勝でしょうね」


「それは、おっちゃんに同意だな。胸は貧相だが愛美は負けねぇだろ、と、俺は冷静に分析してる」


「もう! おじさん! お兄ちゃん!」


「あだだ! 愛美、悪かったてわるい」


 愛園さんがアキラくんの脇腹を捻りあげながら連行した。痛そう……だが、おさかな感謝フェスの美人コンテストか。


 愛園さん、なんで出場決めたんだろ?


 まあいいか。ちょっと楽しみだな!!


 俺はフェスで並ぶ登り旗を見た。


『伝説の美人コンテスト今年も開幕!』


『優勝者は永遠の愛が成就します!!』


『今年もやります梅本重化の巨大ロボ』


「……まるで墓場」


 え?


 さっきのツンツンツインテール娘だ。


 市場の奥底、普段は漁港にあがった魚の競りをしている場所を見ていた。おさかな感謝フェスに備えて、洗ったのだろうが、それでも強い臭いがときおり風に運ばれてくる。


「セラムーを呼んだほうがいいんじゃない」


 ツンツンツインテールが俺の脇を通る。


 漁港の大きな建物が内から破壊された。


 煙、破片が打ち上げられて降り注ぎ、繋がれていた漁船が上下左右に波に揺さぶられた。


「人間ども! オンネンパールを増幅してくれて感謝しよう。俺様はビッグシャチ! 愚かにも目先の欲望を喰らうお前達を喰ってやろう!」


 例年以上のおさかなフェスの立役者は、どうやらビッグシャチだったらしい。地道にチラシを配ったのか。


「たーこー」


 漁港から姿をあらわした生物。


 どう見ても『イカ』の怪人だ。


 だが、タコと言うからにはタコか?


 タコイカは触手を振るう。


 轟音がおさかなフェスを吹っ飛ばす!

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