第47話
結局、あれからも怜央の言う『みみっちい』賭け方を続け結月と莉乃はゲームをクリアした。地道にチップを増やし続けて最終的に結月は三十六枚、莉乃は二十四枚の戦果を上げる。時折全てのチップを使い果たしてしまったプレイヤーがチップをねだって声をかけてくることもあったが、三人ほど叩きのめすと二人に狙いを定めるプレイヤーはいなくなっていた。
「あ、あの、結月さん。今日はありがとうございました」
「うん。莉乃もお疲れさま」
「それで、その、次のゲームも、もし良かったら……」
莉乃は遠慮がちな上目使いで結月を見上げる。莉乃の言いたいことは分かっていた。だが、結月は黙って首を横に振る。
「ごめん。次は私一人でやるよ。まだお金あるよね?」
「は、はい。しばらくは大丈夫です」
「じゃあ私が戻るまで休んでて」
そのやり取りを最後に結月の視界は光に包まれた。そして次に結月が目を覚ましたのは見慣れた自室。点滴の針が引き抜かれる鈍い痛みで、意識が覚醒する。
「第五ゲームクリア、おめでとうございます」
案内役はいつも通りの淡々とした口調で結月の生還を祝福した。結月は何とか起き上がると枕元の携帯端末へ手を伸ばす。入金の欄には三十六万ポイントと記されていた。期待よりもかなり少ない。チップ一枚一万ポイントで計算しているのなら莉乃は二十四万ポイントということになる。もって三ヶ月か四ヶ月が限界か。
それまでにどうするのかを決めなくてはならない。莉乃とゲームを続けるのか、それとも周囲の意見に従って彼女を見捨てるのか。栄養ドリンクの缶に口をつけ、結月は何となく連絡先に登録されている『莉乃』のハンドルネームを見つめる。
と、その時第四ゲームで連絡先を交換していた花蓮から電話がかかってきた。ゲームの誘いか何かだろうか。
「はい、結月です」
「あ、もしもし? 私だけど。ちょっと今お金がなくて困っててね? ゲームに参加せざるを得ないんだけど、どれも難易度が高くて不安なの。結月、一緒にやらない?」
花蓮は相当焦っているのか早口で捲し立てる。だが結月の予想通り、ゲームの誘いと見て間違いなさそうだ。
「いいよ。どれに参加するの?」
「ホントにッ? やった……! あのね、神社からの脱出ゲームがいいかなって思ってるんだけど……」
「分かった。じゃあまたゲームでね」
「うん!」
鼻唄混じりに花蓮が通話を終わらせる。開催予定のゲームの中から目的のものを探しだし、結月は参加を選択した。
「よろしかったのですか? 結月様」
「休みすぎても身体がなまるからね」
珍しい案内役からの質問に答えながら、結月は内心で「言い訳だ」と呟く。本当は考えたくないだけだ。考えてしまえば結月の頭は否応なしに最適解を導き出してしまうから。
個人的な感情など関係ない。今までもずっと、そうやって生きてきた。大切なことは自分の利益になるのかどうか。それだけだった、はずなのに。
(どうして……私は)
彼女を切り捨てたくないと思ってしまっているのだろうか。
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