第27話
「ここでようやく三階か……」
タイムリミットの一時間を半分ほど使い、結月たちは三階の階段に辿り着く。香澄の死が尾を引いているのか思うように進めず、結月は焦り始めていた。残り時間は三十分を切り、もう一階に十分もかけてはいられない。
ここに来るまでにも結月は何度か美玲を急かしたのだが、彼女はヒステリックに結月の意見を拒否するばかりで冷静さを失っている。言わずもがな場の空気は最悪で、いつしか結月と莉乃は前を歩く三人と距離を取るようになっていた。
「結月さん、このペースで間に合うと思いますか……?」
階段から廊下に差し掛かり、莉乃が結月に問いかける。結月は少し考えて首を横に振った。
「多分、下に行けば行くほど罠は増えるしその内容も過激になる。どこかで先頭を歩く美玲に立ち直ってもらわなきゃ、かなり厳しい」
「そう、ですよね……」
隣に並ぶ莉乃は結月の返答を聞いて肩を落とす。かわいそうだな、と結月は思った。だが事実を楽観的に伝えるつもりもない。それは無責任だというのが結月の考えだった。
やがて廊下の奥に行き止まりの扉が見え始める。また鍵探しに繰り出すべく辺りを見渡していた結月は、前方から聞こえた和奏の悲鳴で我に返った。そして目撃してしまう。彼女の歩く廊下が崩落していく、その瞬間を。
結月は咄嗟に莉乃の視界を奪おうとしたものの、一瞬の出来事すぎて間に合わない。結局和奏が落下する様子を呆然と眺めることしかできなかった。
「ゆ、づき、さん……」
「莉乃はここにいて。私についてきちゃ駄目だよ」
ショックのあまりその場に座り込んで動かない莉乃を残し、結月が空いた大穴の底を覗き込む。懐中電灯で照らしてみると、和奏は首の骨が折れているようだった。助からないと冷静に判断を下す。
「莉乃、大丈夫?」
「……私、もうやだ。帰りたい。帰りたいよ……」
再び膝を抱えて泣き始めた莉乃の背中を撫でながら結月が口を開きかけた時、美玲の声が廊下に響いた。
「何をしているのです。早くこっちに来なさい」
結月と莉乃は大穴に道を遮られている。美玲の方へ進むには穴の端に残っている道を歩くしかないのだが、今の莉乃にそれは難しそうだった。
「ちょっと待って、美玲。莉乃が……」
「関係ありません。あなたは歩けるでしょう」
つまり、足手まといになる莉乃は見捨てていけということか。結月の思考回路が急速に冷えていく。そして莉乃に向き直った。
「莉乃、あの穴の端を通って美玲のところに行ける?」
莉乃は俯いたまま首を横に振る。
「あそこを通らないと、どっちにしろタイムリミットが来てゲームオーバーになるよ。私はともかく、身体が小さくて体重が軽い莉乃なら大丈夫だ。慎重に歩けば落ちることはない。先に行かせてあげるから頑張って……」
説得を試みる結月の言葉を遮り、莉乃が震える口を開いた。
「非常、階段……」
「非常階段? 非常階段があったの?」
結月の問いに、莉乃は頷く。どうやら莉乃は危ない道を通るより安全な非常階段を使いたいらしい。迷いはあったが、結月もそれを聞いて覚悟を決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます