名乗らない男とその天敵。

第20話

ノックの音に振り返った男は舌打ちして私から離れるとソファーに腰掛けた。彼と私の間に自然と開いた距離に安心した私。


「どうぞ。」


なんとか普通に声が出せたと思う。


「失礼いたします。」


何時もと同じ落ち着いた声の上城さんがドアを開けて後ろのお客様を先に部屋に入れた。

部屋に入ってきたのは、優しそうなスーツ姿の男の人とワンピースの女の人で、2人とも30代に見えた。この二人が甲賀夫妻。

私の養父母になった人達。

初対面の印象は凄く優しそうな人達。

新しい生活にとくんと胸が弾んだ。

私の姿を窓辺に見つけてにこりと笑ってくれた奥様に私も微笑み返した。


「…よう。久し振り。」


自己紹介の為、口を開きかけた私は波月さんのお兄さんの声に我にかえった。まだソファーに座ってたんだった。


無月むつきさん何故この部屋にいるんです。」


眉を潜め質問したのは甲賀さん。

上城さんは姿を消していた。


「何故?客人に挨拶するのに理由が要るのか。」


ニヤリと笑う無月さん。


「貴方は別です。飛びきり女ぐせが悪いのですから女子中学生の部屋に入り込む等、言語道断。」


「相変わらず手厳しいな。だが、今回は俺がお嬢様を誘い込んだ訳じゃ無いからな。怒るんなら波月にだろ。」


無月さんは肩をすくめて立ち上がると私をちらりと見て


「またな、お嬢様。」


そう言って部屋を出ていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る