第19話

「ご兄弟ね。確かに俺はアイツの兄貴だよ。不本意ながらね。」


彼は肩をすくめてつまらなさそうに口にした。


「あ、はじめまして。

さえ…いえ、甲賀香織といいます。

弟さんに保護された。と言いますか、お世話になってます。」


「甲賀?珍しい名前だね。ああ!もしかして弁護士の。」


思い至ったらしい彼に頷いた。


「へえ甲賀先生、若く見えたのにこんなに大きな娘さんがいたんだね。」


彼の言葉に笑いながら曖昧に頷いた。

私は養子なんだけど、どこまで話したらいいかなんてわからない。

何となく彼からは波月さんに対する敵意が感じられるから。

まだ名前も 名乗ってくれないし、信用は出来ない。


「それは残念。君、可愛いし波月のお相手なら俺も交ぜて欲しいと思ったのに。先生に睨まれると困るからな。」


『交ぜて欲しい』にこにこと笑いながら私にかける言葉は怪しげだ。


「中学生相手に遊ばないでください。」


黒木さんのお兄さんだけあって背も高く顔も整ってる。

彼に比べて表情豊かな分人当たりもいいし明るく社交的な感じだ。

女が放って置かないタイプだよね。

私の呆れたような言葉に彼は軽口を返す。


「アイツとは遊んだんだろ。アイツ女に見境ないから。」


鼻で笑われてカチンと来た。


「波月さんは私なんか相手にしないです。困ってた私を助けてくれただけで。」


私の言葉に波月さんのお兄さんは驚いた。


「へぇ波月が助けた。君をねえ。」


彼の纏う空気が一気に冷たくなった。

私の頭の天辺から足先まで舐める様に見ている。

気持ち悪い!!

私は何か彼の気に障る事を口にしたらしいが、こんな目で見られる覚えは無い。彼の目に怯えて窓際まで追い込まれた。


「ふ、ざけないで、ください。」


声が震える。そんな私を見詰める彼は実に楽しそうだ。この男は自分より弱い者を虐待するタイプに違いない。


コンコン。


私を救ったのはノックの音と上城さんの低い声。


「お嬢様、甲賀ご夫妻がおみえです。」


助かった!

時計の針は確かに10時を指していたから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る