第18話
部屋に戻ろうとした私は、右か左か行く方向に迷った。洋館の作りは完全なシンメトリーで
「どっちだったっけ?」
スロープは邸のど真ん中だし、両側の部屋の並びは全く同じだ。
方向音痴じゃない筈だけど
「たぶんこっち、で、二つ目のドア。だよね。」
聞こうにも人影はない。
こんなに大きなお屋敷なのに考えたら私は上城さん以外の使用人に会っていない。
いつも上城さんがいいタイミングで現れたから。残念ながら今回はそれもない。
取り敢えず選んだドアの前に立ちノックをした。
もし間違えたら違う部屋だし誰かが中に居るかもしれないから。
迷った末の私の行動は間違ってなかったようで
「はい。」
私のノックに答えて中から低い返事が聞こえて青くなる。
部屋を間違た!!
聞こえた声は知らない男の人のもので正直困った。
ノックをした手前、知らん顔して立ち去るなんて失礼だけど
見知らぬ人に『部屋を間違えました。』なんて言うのも恥ずかしい。
戸惑う私の前のドアは突然開いて、背の高い男の人が目の前に現れた。
「入らないの?」
私に笑いかける顔は黒木さんより年上で彼に少し似てる気がした。
「すいません。私、お部屋を間違えたみたいで… 」
「間違えた?」
「はい。中庭に出て方向を…」
見失いました。と続ける筈が手首を捕まれ部屋の中に引っ張り込まれた。
「きゃっ。」
私の小さな悲鳴と共に閉まるドア。
「廊下で長話はいただけないだろ。」
にこにこと笑う男から距離を取り後ずさる。ドアを背に立たれていては廊下に逃げ出す事は出来ない。
そして気付く。
ここは私が使っていた部屋だと。
半開きのカーテンもソファーに置かれたクッションの位置も私が移動させた場所のままだ。
それなら彼が部屋を間違えてる?
「どうしてあなたが私の使ってる部屋にいるの。貴方は誰?」
じりじりと後退りながら沈黙の恐怖に勝てず質問をぶつけた。
私の疑問に彼は笑いながら、
「ここは俺の持ち物だよ。
久し振りに訪れたらこんなに可愛いお客様がいるから驚いたよ。」
俺の持ち物ってこの別荘が?
ここは黒木さんの別荘じゃなかったの。
「ここは黒木波月さんの別荘だとお聞きしてますが。」
私の言葉に彼はピクリと肩を震わせて歪んだ笑顔を見せた。
「正確には俺達の親父、
親父と言うことは
「ご兄弟なんですね。」
波月さんの名前はわざと出さなかった。何となく危険な感じがしたから。
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