第16話

ゆっくりと私が食事を済ませた後で上城さんが


「甲賀様ご夫妻は10時頃おみえになるそうです。」


静かな声で教えててくれた。

あの出合いから彼は彼なりに気を使ってくれていると思うのだが


「ありがとうございます。」


頑なな私は態度を軟化させられないままでいた。

必要最小限の言葉と素っ気ない態度。

礼儀としてお礼だけはちゃんと言ったが。彼はそんな私にほんの一瞬悲しげな目を向ける。

それがすごく気まずい。


「あのっ、それまで中庭をお散歩しても構いませんか。」


初めて彼に業務連絡以外の口を聞いた。


「中庭ですか。それでは少しお時間を頂けますか。」


「は?」


「中庭には今の時間帯は犬が放してあるのです。」


「犬、ですか。」


「はい。ドーベルマンです。旦那様と調教師以外には襲いかかる様に躾られておりますので。」


「‥‥‥‥」


犬は好きなんだけど襲いかかる様に躾られてるんなら近寄れないよね。


「防犯用ですか。」


「はい。左様でございます。夜も同様ですので中庭へは声をかけてからお出になって下さい。

では犬を回収しましたらご報告に参りますので。」


「ありがとうございます。」


今さら散歩を辞めますとは言えず、お金持ちはやることがハンパないとため息をついた。

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