第31話 偽名

 受付に戻ると、先ほどの受付嬢が待っていた。彼女は小さな金属板を机の上に置き、差し出す。


「こちらが冒険者ギルド証となります。……おめでとうございます、レオンさん」


 俺はそれを受け取った。冷たい金属の感触が掌に伝わり、胸が熱くなる。

 そこには確かに俺が記した偽名――「レオン」の名が刻まれていた。


「……ありがとうございます」


 受付嬢は頷き、柔らかな笑みを浮かべて続けた。


「冒険者ギルド証は、身分証としての役割も果たします。宿や商店で提示すれば信用の証となり、滞在や取引も容易になります。

 さらに――依頼の成果はすべて、このカードに自動的に記録される仕組みになっています」


「記録……?」


 俺が思わず聞き返すと、彼女は頷き、机の上に置かれた数枚の見本カードを示した。


「はい。達成件数や功績に応じて、カードの等級――つまり冒険者ランクが上がっていきます。ランクは色で区別されており、駆け出しは銅色ブロンズ。そこから鉄色アイアン銀色シルバー金色ゴールドへと昇格していきます」


 彼女は一呼吸置いて、少し声を落とした。


「さらにその上には、選ばれた者だけが手にできる白金プラチナも存在すると言われています」


 受付嬢はさらに背後の掲示板を指差した。

 そこには無数の依頼書が貼られ、討伐・護衛・採集と種類ごとに並んでいる。


「依頼もランクに応じて分けられています。今のレオンさんが受けられるのはFランク、あるいはEランクの依頼になります。最初は薬草採集や小型魔物の討伐といった、比較的安全なものが中心ですね。

 経験を積み、功績を上げれば、護衛や探索、遠征といった高ランク依頼へと挑むことも可能です」


 俺は「なるほど」と頷いた。

 ランクごとに受けられる依頼が違い、功績を重ねることで徐々に上へと登っていける……。言葉にすれば単純だが、実際にその道を歩むとなれば、きっと容易ではないだろう。


「説明はこれで以上となります。なにか質問はありますでしょうか?」


 受付嬢が柔らかな口調で問いかけてきた。

 俺は一瞬迷い、けれど首を横に振った。


「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。ええーっと…」


 俺が言葉を探していると、受付嬢は小さく「あ」と声を漏らした。

 そして姿勢を正し、柔らかな笑みを浮かべる。。


「失礼しました。わたくし、ソルベルグ冒険者ギルドの受付嬢をしております、リーナと申します。これから依頼の受注や報告などで、何度も顔を合わせることになると思いますので、どうぞよろしくお願いしますね」


  その言葉と共に、リーナは背筋をすっと伸ばし、腰を折って深々と一礼した。


 俺は慌てて頭を下げ返しながら、口を開いた。


「こちらこそ……リーナさん、これからよろしくお願いします」


 言葉にすると、不思議と胸の奥が軽くなる。さっきまで試験で張り詰めていた緊張感が、ようやく解けていくようだった。

 するとリーナさんは、安心させるような微笑みを浮かべて頷いた。


「ええ。冒険者は時に命がけの仕事ですから、皆さんが少しでも安心して挑めるよう、私たち受付は支えになるのがお役目です。困ったことがあれば、どんな些細なことでも遠慮なくご相談くださいね」


「……はい、ありがとうございます」


 頭を下げて受付を離れると、リオがひらりと肩に飛び乗ってきた。


「よかったな、ハル。これで冒険者だ」


「ああ。なんとか合格した」


「……けど、忘れてないだろ? 俺たちの正体は、人に知られちゃならないんだ」


「――あ」


 そうだった。そのことがすっきり抜けてた。


「今度から気を付けるよ」


「そうだな」


 リオがわざとらしく尻尾を振る。


「…さて、これでやっとお金を手に入れられるな。さっそく依頼とやらをうけてみようか」


 その言葉に頷き、俺は掲示板へと足を向けた。壁一面に貼られた紙には、薬草採集、小型魔物の討伐、商隊の護衛、探索依頼……と、さまざまな依頼が並んでいる。


 一枚一枚眺めているうちに、ある紙に目が吸い寄せられた。


――ダンジョン調査


「……お、おい、これ……」


 思わず声が漏れ、紙を指さす。リオとセリスも身を寄せ、俺の指先を覗き込んだ。


「……!」

「これは……」



 


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現代知識を駆使して最強ダンジョンを作り上げる やまもどき @yamamodoki

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