42 夜の病院①

 私と夢羽は、見つけた公園のベンチで休憩がてら、軽食を取っていた。

 警戒もしていたが、取っている間に骸骨顔は1度も現れなかった。


「骸骨顔来なくなったね」

「うん、タツロー追いかけていたりして……あ! あの建物も電気点いてるよ」


 夢羽が指した先には、病院があった。


「いかにもホラー映画に出てきそうな感じだね……」

「うん、雰囲気あるね!」


 なぜか夢羽はわくわくしている。

 軽食を取り終えた私達は、行く当てがないのでその病院に向かった。

 そして正面玄関に着き、中へと入った。


 夜という設定なのか、受付には警備員らしき人が1人いた。

 だが、その警備員は私達の事はお構いなしに、ずっと新聞を読んでいる。


「あのー……ここに、この宛名の方いますか?」


 私は手紙をその警備員に見せる。


「……」


 しかし、こちらを見てくれない。

 というよりか、気づいていない。


「この反応の無さ、夢の設定に準じていないからかな?」


 夢羽がカウンターに身体半分乗り上げて、新聞の前で手を振ったが全然気づいていない。


「なんか面白ーい!」

「遊んでないで探しに行くよ」

「はーい……あ、待って。この広さ、2人で探索するのはきついから、応援出すよー」


 そう言い、その場にあったパイプイスを4脚ほどかき集め始めた。


「え? 何? 誰に応援もらうの?」

「さっきたくさん食べたから、できそうなんだよね……」


 夢羽がそう言い、パイプイスに触れる。

 すると、


「うわ!? 何こいつ!」

「できた! ロボ太、ロボ子、ロボ郎、ロボ美」

「名前あるんだ……ゲンじゃないよね?」


 パイプイスの形が変わり、足はタイヤの金属むき出しのロボットが4体出来上がった。


「違うわよ。それじゃ、気をつけてねー!」


 そして夢羽はロボット達を見送った。


「夢羽最近色々と作ってるけど、どういうこと?」

「ここまであからさまに作ってたら気になるよね……」


 夢羽は何かを警戒している。

 輪廻の世界の状況を見ているのだろうか?


「今なら大丈夫そうね。でも手短にね」

「うん……」


 私は夢羽の言葉を待つ。


「それはね、物を作るのが得意だからよ。風羽も器用でしょ?」

「……それだけ?」

「うん、それだけ」

「いやいやいや! 作るのが得意ってレベルじゃないでしょ! 何か粘土みたいなのねたら手榴弾ができるわけないじゃん!」

「詳細はまた今度ね。また戻ってきたよ……」


 何も無い所をキョロキョロと見ている。


「おっけー……とりあえずそれで納得しておくー」

「すごく棒読みね」


 夢羽はくすくすと笑う。


「楽しみは取っておくよ。それよりこの病院、いるんじゃない?」

「おばけ?」

「いやいや! というか、おばけは私達よ」

「あたしはまだ生きてるわよ」

「あ、そうだった。じゃなくて! 要救助者がいそうってこと」


 銃をホルスターから抜き、つくちゃんに銃の弾の種類を電撃弾に変えてもらった。


「あら? どうして?」

「ほら……」


 床を指す。

 そこには、何かを引きずった跡があった。


「これってあの骸骨顔がやったのかな?」

「それしか考えられないね」


 カバンのサイドポケットに入れておいたペンライトを左手で逆手に握る。

 そして、右手で銃を握った。


「さて、夜の病院は怖いけど、行こうか」

「おっけー」


 私と夢羽は、引きずった跡が続く1階の奥へと進んだ。


---


 引きずった跡を追いながら、私達は1階フロア奥の診察室などを捜索していた。

 さっきの反省で、1人きりにならないことを最優先とし、お互いの死角をカバーするように捜索をしている。

 私は恐る恐る周囲を警戒している。


「あの骸骨顔、突然出てきたりしないよね……?」

「夜だし、ここの床って足音響くし、浮いていない限り大丈夫でしょ」

「浮いている可能性もあるのか……」


 はははと苦笑する。


「それにしても、主も救助者もいないわね……。何かしらのイベントが発生している所の近くにいるはずなんだけど」

「イベントなんて起きてたっけ?」

「さっきの警備員さん、こっちに気づいてなかったでしょ? あれ、たぶん夢のイベントシーンの1つかもよ」

「なるほど……ん? また視線を感じるよ……。今度は背中だけじゃないね。ぐるぐる見られているような」


 私は見られている方向を指しながら、自分もぐるぐると回る。


「あ、消えた」

「何なのかしらね?」

「さあ?」


 そんな雑談をしながら1つの診察室を調べ終えた。

 机の下やベッドの下に隠れてないかも調べているため、少し時間がかかっている。

 いくつか調べ終わったが、まだまだ奥があるので時間がかかりそうだ。


「夢羽。ロボ達はどう?」

「うん、特に異常ないみたいね」

「何か異常があった方がいいんだけどね……要救助者を見つけたとか」

「まあねー」


 その後、更に診察室や処置室を捜索したが、主も要救助者も見つけることができなかった。

 救急処置室は明かりが灯っており、たくさんの医師や看護師が慌ただしく動き回っている様子が見えた。


「あっちにはいなさそうね」

「そうだね」


 そう言い、まだ行っていない方向へ行こうとした。

 すると、さっき捜索した方向で、ガシャーンという何かが倒れた音が響いた。

 それと同時に、あの見られている感覚が感じられる。


「うわ! なに? ……あの辺りってさっき……」

「うん、探した所だよ」

「うーん……どうしよ……あ! あの下に隠れよう」


 私は夢羽の提案に頷き、ペンライトを消した。

 その瞬間、なぜか見られている感覚が消えた。

 私と夢羽は、さっき見られた所から少し離れたベッドの下に身を隠した。


 しーんと静まり返った部屋から、少し足音が聞こえる。

 そして、その足音が速いペースでこちら側に近づいてきたが、どこかで足音が止まった。


 もしかして、さっき私達がいた場所かな?


 私と夢羽は、呼吸が聞こえないように袖で口と鼻を覆う。

 目がどんどん暗闇に慣れてきた。

 凝らして見ると、骸骨顔が履いていた同じ革靴が、さっきとは違いゆっくりとこちらに近づいてきた。

 そして、


 革靴特有のカツンという音を響かせ、私達のベッドの前で立ち止まった。


 気づいてませんように! 気づいてませんように!


 私は恐怖のあまり震える。

 ブンッという風を切る音と共に、大きな鎌の先端がチラリと見えた。

 そして、


「「…………!!!」」


 布が裂ける音と共に、私達の目の前に鎌の先端が床に突き刺さった。


 やばいやばい! このままだとバレちゃう! どうしよう!


 私と夢羽はガタガタ震えながら立ち去るのを待つ。


「そこのお前! そこで何をしている!」


 すると、遠くから男の人の声が聞こえ、ライトでこの辺一帯が照らされた。

 その瞬間、大きな鎌と骸骨顔の足が見えなくなり、叫び声の後に発砲音が数回、その後ドサッという音と共に、何かが落ちて割れる音が聞こえた。

 その音と同時にライトの光も消えた。


「あいつ!」

「風羽、落ち着いて。これ、夢の内容だから、どの道あの男の人は骸骨顔にやられていたと思うよ」

「でも……」

「あの骸骨顔に夢の主がやられないように、私達が守らないと……ね?」

「……わかった」


 小さな声で夢羽と話す。

 私は渋々了承した。


 話していると、骸骨顔がまたこっちに向かって走ってきている足音が聞こえる。

 話し声に気づいたかと身構えていたが、私達が隠れているベッドの横を通り過ぎていった。


 あれ? 気づいていない?


 よーく耳を澄ませて聞くと、私達が向かう予定だった所からキュルキュルというタイヤの摩擦音が聞こえてきた。

 おそらく夢羽が作ったロボットの音だろう。


「夢羽!」

「うん、骸骨顔がロボ子と接触したわ」


 その返事の後、鉄と鉄が接触する音が響き渡った。

 鎌とロボットの身体が接触したのだろう。


「夢羽、今のうちに移動しよう。1階にはいなさそうだよ」

「そうだね。それじゃあ行きましょう」


 ベッドの下から這い出て、男の人の遺体がありそうな廊下を避け、診察室の中から2階へと向かった。

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