30 少女アイリスとの戦い②

「あれ? アイリス? この部屋に他の局員いなかった?」

「ええ、いたわよ〜。あれですわ〜」


 奥の方で転がっている局員が1人、黒い何かに拘束されて、もがいている。


「捕まえてくれたの?」

「そんなとこかな~? あ、壊し忘れているわね~」


 そう言い、窓に手をかざす。

 そして何か黒い物を握った後にそれを投げ、部屋の隅に置かれていた壺を割った。


「壺!?」

「風羽。邪気が逃げていくわ」

「そう言われても、私にはどうしようも……」

「これ使って」


 夢羽は黒い袋を渡してきた。

 私はそれを受け取り、割れた壺ごと被せた。

 袋がモゾモゾと動いているので、袋側に移動をしているようだ。


「こいつら、暗い所が好き?」

「そういう性質はあるわね」

「なるほど……」


 被せた部分で動いていた邪気が中に入っていったので、口を縛った。


「これでよし……」

「味方と思ってたんだけど~……残念ね〜……ねえ、それをどうするのかしら~?」


 私が袋をカバンに入れようとすると、アイリスがそれを制した。


「どうするって……夢羽、どうするのこれ?」

「まあいいわ~。それを集めているってことは、私の敵ってことで間違いないからね!」


 アイリスは壁に手をつけると同時に、外の方で何かがこちらに迫ってくるのが見えた。


「やばい! 何かが来る!」


 扉があったのでそこに入ると、バルコニーに出ることができた。

 そして外を見ると壁のような物が建物側に倒れてきて、そして建物にぶつかった。

 その衝撃でさっきまでいた建物が崩れていった。

 私が立っていたバルコニーのある建物も衝撃が伝わり壊れたが、無重力の星だったので難なく瓦礫がれきの上に着地することができた。


「危なかった……。何が起きたの? てかアイリス無事かな?」

「キキキ……敵の私も心配してくれるのね~。ほんと、不思議な人ね~ムウ……いえ、フウ? とお呼びすればいいのかしら~?」


 瓦礫がれきにぽっかりと穴が開いており、そこにアイリスが立っていた。

 そのアイリスの右手には前にも持っていた大きな黒い剣、左手には黒い短剣が握られていた。


「え? なんでその名を?」

「ここで、その子と喋ってたじゃない~」


 アイリスは夢羽を指す。


「あ、あたし、他人に見えるのね」

「見られてるじゃん!」

「ごめんー!」


 そう言い、夢羽は私のカバンを引っ張って、どこかへ持って行った。


「そう……私は風羽。あの子が夢羽よ。ちょっと深い事情があって、名前を偽ってるんだよね」

「その邪気が関係するのかしら~? まあいいわ~、邪神教団は私の敵。消えなさい!」


 アイリスは大剣を逆手に持ち、投げる体勢になってそれを投げてきた。


「うわぁ!? そんなデカい剣投げてこないでよ!」

「キキキ……」


 私の側に突き刺さっていた大剣が消え、またアイリスの手元に戻ってきた。

 そしてそれを


「キキキ!」


 再び私に向かって投げた。

 私はそれをナイフでらし、非殺傷弾の入った拳銃でアイリスを撃つ。

 アイリスは私が銃を抜いたタイミングで短剣を手放し、どこからか出した黒い小さな盾で銃弾を防いだ。


「あら〜良い位置にあるわね~。これも喰らっておきなさい~」


 アイリスは太陽の位置の確認したのち、手を前に出した。

 すると、瓦礫から黒くて細かい小石が無数に現れ、それが私を襲う。

 私はそれを、近くの大き目の瓦礫に隠れしのいだ。


「待て待て! それはヤバイ死ぬ!」

「もう死んでるでしょ~」


 ヒュンという音がしたので、瓦礫から出て右に避けた。

 すると、私がいた瓦礫は大剣が刺さり、粉々になってしまった。


「キキキ……」


 アイリスは笑い、また瓦礫から小石を出して飛ばしてきた。


「それ反則! どういう仕組みなのよー」

「キキキ……ひみつ~」

「この世界、秘密多すぎ! もう! 邪神教団ってなんなのよ!」


 別の大きな瓦礫に隠れ、小石の雨を凌いだ。


「邪神教団の人が何を言ってるのかしら~?」


 アイリスは小石による制圧を続けている。


「それは誤解よ。あたし達は邪気を浄化したいだけ」


 夢羽がカバンの陰から出てそう言うと、アイリスの制圧攻撃が止んだ。


「浄化したい〜?」


 アイリスは夢羽を睨む。


「邪気は、手紙の思いのチカラで浄化できるの」

「それ、本当かしら〜? そんな情報、うちの者が調べても出てこなかったわ〜」


 アイリスは大剣を瓦礫に刺す。


「……にわかに信じ難いわね〜。それ、どこからの情報なの〜?」

「それは……言えない……けど! これを夢の主の所で浄化してみせるわ!」


 夢羽は、さっき回収した邪気の入った袋をカバンから取り出して見せた。


「……日本のことわざで、百聞は一見にしかずでしたかしら〜? 私も同行して確認しますわ〜」


 そう言い、アイリスは大剣を消した。


「ありがとう……」

「いい〜? これは休戦状態ですからね〜? もし嘘だったら、すぐに叩き斬るわ〜」


 アイリスはまた大剣を出した。


「わかったよ」


 私はナイフと銃をそれぞれのホルスターに戻した。


---


 時は戻り、風羽が狼煙を上げた後。


「ははは、死んでるがな」


 タツロウは通話を切った。


「よお! 戦場の星ではお世話になったな」


 銃を目の前の人物に向ける。


「ヒヒヒ……これはこれは……どなたでしたっけ? すいません、人の顔はなかなか憶えきれなくて」


 仮面をつけているので顔はわからないが、不気味な笑い方と平均よりずっと高い背丈、そして白髪といった人とは違う特徴的な点が多いので、顔がわからなくてもわかった。


「てめぇの中では、俺は憶えるほど価値はないってか?」

「そんな事はありませんよ。あなた方局員は、邪神様復活の礎ですので、すごく重宝しています……ヒヒヒ」


 長身の人は、カバンの中から何かを取り出した。

 そしてそれを地面に置いた。


「ヒヒヒ! もっともっと邪気を集めるのです! 試作20号機!」


 長身の人がそう言うと、武装したそれがタツロウに襲いかかった。

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