第31話:「黒竜の胎動」

 黒竜。その名は、太古の時代から恐れられてきた災厄の象徴だ。漆黒の鱗に覆われた巨大な体躯、その口から放たれるブレスはすべてを焼き払い、命を無に帰す。かつてこの世界を幾度も滅亡の危機に陥れたその存在は、封印されていたが、黒樹の森の奥で再び目覚めようとしていた。


 ベルガルド冒険者ギルドでは、黒竜の復活の兆しを受けて緊急会議が開かれていた。異常な魔物の動きと強力な魔力が黒樹の森で観測され、冒険者たちは緊張感に包まれていた。


「黒竜の封印が解かれつつある……」


 ギルドマスターのバルモンドがそう告げると、ギルド内は一瞬で静まり返り、次いでざわめきが広がった。


「黒竜……あの伝説が本当に復活するのか?」


 レイヴンが動揺した声で問いかけ、隣にいたミリアも不安そうにバルモンドの言葉に耳を傾けていた。


「もし黒竜が目覚めれば、この街どころか周辺の都市すべてが危機にさらされる」


 バルモンドは表情を引き締め、冒険者たちに視線を向けた。


 ガルドは、ギルドの中央で冷静に立っていた。彼はCランク冒険者として、普段は大規模な討伐には関わらないが、今回の事態はそれを超えるものだった。


「黒竜が目覚めれば、この街も滅びる。それを阻止するために、できる限りの力を使う」


 ガルドの言葉に冒険者たちは静まり返り、彼の意思を感じ取った。


「ガルドさん、俺たちも一緒に行きます!」


 Bランク冒険者チームのリーダー、ラグナが前に進み出てガルドに呼びかけた。ラグナの後ろには、弓使いのアリーシャ、盾役のゴードン、そして回復魔法使いのカレンが揃っていた。


「ガルドさんと一緒なら、俺たちBランクでも力を発揮できるはずです!」


 アリーシャが真剣な表情で続け、ゴードンは重厚な盾を構えながら静かに頷いた。


「俺たちも共に戦うつもりだ。ガルドさんがいれば、何とかなるさ」


 カレンもまた、回復魔法を使いながら彼らを支援する準備を整えていた。


 錬金アカデミーは討伐には直接参加しないものの、討伐隊の支援として回復ポーションや特殊アイテムを準備していた。アカデミーの生徒であるリナも、その準備に追われながら黒竜討伐に協力していた。


「ガルドさんたちが黒竜に挑むなら、少しでも助けにならなきゃ」


 リナは、かつてガルドの護衛依頼を経験しており、彼に対して大きな信頼を抱いていた。錬金術師たちは次々にポーションや魔法強化アイテムを製作し、討伐隊に供給するための準備を進めていた。


 一方、黒竜の復活を利用しようと暗躍する者たちもいた。魔族一派「影氷の爪(エイセリカ)」の残党は、黒竜の力を自らの目的のために利用しようとしていた。彼らは人間への復讐を果たすため、黒竜の力を解放しようとしていた。


 現在のリーダーであるゼノスは、冷静な目で黒樹の森を見つめながら、その思惑を練っていた。


「黒竜の力を手に入れれば、この世界は我々のものになる」


 ゼノスの隣には、かつてギルドから追放された冒険者、グリードがいた。グリードはベルガルドの冒険者に対する復讐心を抱いており、ゼノスに協力していた。


「ガルドやあいつらを倒すためには、黒竜の力が必要だ。街ごと滅ぼしてやる」


 ベルガルドからの報告は、ついに王都ラーナストールにも届いた。王都の冒険者ギルドは、急遽黒竜討伐のために支援を派遣することを決定し、王都の貴族令嬢レティシア・フォン・ルードが再びベルガルドへの同行を申し出た。


「黒竜の目覚めが現実のものなら、私も協力しなければ……」


 そして、今回の討伐には王都の聖女であるエイリスも同行することが決まった。エイリスは強力な癒しの力を持ち、その力で数々の戦場で傷ついた者を救ってきた。


「黒竜が復活するなら、私の力が必要です。人々を守るために、私も力を貸しましょう」


 今回の事態に対して、ベルガルドでも数少ないAランク冒険者が集結し始めていた。彼らは普段、ベルガルドの街で目にすることは少ないが、黒竜討伐という大規模な戦いに応じて現れた。


 その一人、エルネストは剣術の達人であり、圧倒的な力を誇る存在だった。


「黒竜だと? 面白い戦いになりそうだな」


 エルネストは、鋼の如き剣を握りしめながら微笑んだ。もう一人のAランク冒険者、セリーヌは魔法の達人で、攻撃魔法を得意としていた。


「黒竜の力、私の魔法で止めてみせるわ」


 この2人のAランク冒険者が加わることで、ベルガルドの討伐隊はさらに強力なものとなり、黒竜との決戦に向けた準備が整った。


 ベルガルドの冒険者ギルドは、黒竜討伐に向けて大規模な準備を進めていた。ガルド、ラグナたちBランクの冒険者、Aランクのエルネストとセリーヌ、王都からの支援を得て、ついに黒樹の森へと進軍する準備が整った。


「これは街を守るための戦いだ。全力で挑む」


 ガルドは静かにそう言い、討伐に向けて剣を握りしめた。


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