第30話:「絡み合う縁と冒険者たち」

 雨竜の月も終盤に差し掛かり、ベルガルドの街には晴れ間が見え始めた。連日の雨により湿気が漂う中、ギルドは依頼を求める冒険者たちで賑わっていた。セリアはカウンターで忙しそうに書類をまとめながら、憧れのエリシアを横目で見ていた。


「エリシアさんって、本当に優雅で素敵……」


 セリアはそう呟きながらも、しっかりと業務をこなしていた。彼女にとってエリシアは目指すべき理想の姿だ。だが、目の前に現れるある人物のせいで、心はどこか落ち着かない。


 ギルドの扉が重々しく開き、現れたのは無言の冒険者、ガルドだった。彼はいつも通り、無表情のままカウンターに向かって歩いてきた。


「また、あのガルドさん……なんでいつも怖い顔してるんだろう」


 セリアは少し身構えながら、ガルドがエリシアのところで依頼を受ける様子を遠くから見つめていた。そんな彼女に気づいたエリシアは、セリアに優しい微笑みを向けた。


「セリア、気にしないで。ガルドさんは見た目は怖いけれど、頼りになる冒険者よ。私も、彼が依頼を受ける時は心配する必要はないの」


 エリシアの言葉に、セリアは少し安心したものの、ガルドが怖いという印象は変わらなかった。


 ガルドがギルドの掲示板で依頼を探していると、後ろから聞こえてきたのは、いつもの仲間であるレイヴンとミリアの声だった。


「お、ガルドも次の依頼探し中か?俺たちも次の仕事を探してるんだ」


 レイヴンは気さくに声をかけ、ガルドの隣に立った。彼とミリアは最近、ガルドとは別の依頼を受けることが多かったが、同じ街を拠点にしていたため、時折顔を合わせていた。


「黒樹の森に魔物が集団で出現しているらしい。規模はそこまで大きくないが、連携が必要だ。お前たちと一緒なら効率がいい」


 ガルドが手に取った依頼書を見せると、レイヴンは興味深そうに頷いた。


「黒樹の森か……久しぶりにあの森で一緒にやるか。あそこなら俺たちの腕も試されるってもんだ」


 ミリアも頷きながら、冷静に言葉を重ねた。


「そうね、最近の依頼は簡単なものばかりだったし、ガルドさんと一緒なら大丈夫。私も戦術の補助に集中できるわ」


 ガルドは無言で頷き、依頼を受けることにした。三人は準備を整え、黒樹の森へ向かうことに決めた。


 黒樹の森は、ベルガルドの東に広がる広大な森で、かつて何度もガルドたちが訪れたことがある。強力な魔物が棲息することで有名なこの森は、常に警戒を要する場所だった。木々が生い茂り、薄暗く、ぬかるんだ地面が彼らの進行を阻む。


「黒樹の森……独特の不気味さがあるな。でも、俺たちなら問題ないだろ」


 レイヴンが少し軽い調子で言ったが、その目は周囲の気配を鋭く探っていた。ミリアも彼に続いて笑いながら答えた。


「ここでの戦いは慣れてるけど、気を抜かないようにね。油断は禁物よ」


 ガルドは静かに辺りを観察しながら、慎重に進んでいく。木々の間からは、かすかに魔物の気配が漂い始めていた。報告によれば、今回の魔物はシャドウウルフの群れ。黒樹の森の奥深くに潜む狼型の魔物で、暗闇の中を影のように動き回る。


「囲まれたら厄介だ。レイヴン、ミリア、いつものように連携を意識していけ」


 ガルドの声に二人は頷き、緊張感を高めた。やがて、森の奥から低い唸り声が響き渡り、木々の間から無数のシャドウウルフが現れた。


「来たぞ!」


 シャドウウルフは、敏捷な動きで三人を囲むようにして攻撃を仕掛けてきた。ガルドは冷静に動き、一匹のシャドウウルフに剣を突き刺し、瞬時に仕留めた。その間も、周囲の動きを見逃さずに、さらに次の敵を狙う。


「ミリア、サポートを頼む!」


 レイヴンの声に反応したミリアは、すかさずスピードアップの魔法を唱え、レイヴンの動きを加速させた。レイヴンはその効果を受けて、素早くシャドウウルフたちを翻弄し、次々に倒していった。


「さすがだな、ミリア!お前がいると心強い!」


 レイヴンは笑いながら戦い続け、シャドウウルフの動きを封じ込めた。ミリアも的確に補助魔法を使いながら、三人の連携を強化していた。ガルドはその間も淡々と敵を倒し、無駄のない動きで群れを制圧していった。


「ガルド、右側からも来るぞ!」


 レイヴンの声にガルドは反応し、右側に現れたシャドウウルフに剣を振り下ろし、瞬時に仕留めた。ミリアの補助が絶妙に入ることで、三人の動きは完璧な連携を見せていた。


 シャドウウルフの群れを倒し、戦いが一段落した後、三人は息を整えながら次の行動を考えた。しかし、森の奥からさらに強力な気配が漂ってきた。


「まだ終わってないみたいね……」


 ミリアが静かに呟いたその瞬間、木々の間から巨大な影が現れた。それは、ウッドゴーレムだった。黒樹の森の深部に眠る古代の守護者ともいえる存在で、巨大な木でできた体を持ち、周囲の自然と一体化して戦う強敵だ。


「これは厄介な相手だな……だが、俺たちならやれる」


 ガルドは剣を構え、冷静にウッドゴーレムの動きを見定めた。レイヴンとミリアもそれに続き、ウッドゴーレムとの戦いに備えた。


「ミリア、ウッドゴーレムを動きにくくする魔法を頼む!俺とガルドで仕留める!」


 レイヴンの指示に、ミリアはすぐにスローエンチャントの魔法を唱え、ウッドゴーレムの動きを鈍らせた。その隙を突いて、ガルドとレイヴンは同時に突進し、ゴーレムの弱点であるコア部分を狙った。


「今だ!」


 二人の剣が同時にウッドゴーレムのコアを貫き、巨大な木の体が崩れ落ちていった。


 黒樹の森での戦いが終わり、三人は森の出口へと静かに歩き出した。依頼は無事に完了し、ガルドもレイヴンも満足そうだった。


「さすがガルド、動きが冷静で頼りになるな。ミリアも完璧なサポートだったぜ」


 レイヴンがガルドに笑みを向けると、ミリアも微笑みながら続けた。


「ガルドさんが一緒だと、安心してサポートに集中できるわ。今日もいい連携ができたわね」


 ガルドは静かに頷き、いつもの無口な様子で二人の言葉を受け止めた。そして、彼らは依頼を終えてギルドへと戻るため、ゆっくりと森を後にした。

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